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18歳以上ですか?
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プロローグ
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その日、幼馴染みが死んだ。
15歳の冬。
長かった受験も終わり、春からは新しい学校で新たな友人との輝かしい高校生活が始まる…
はずだった。
それはあまりにも唐突で、頭では理解していても心が追い付かず、俺は通夜になっても現実を受け止めることが出来ないでいた。
…その日は珍しく、朝から雨が降っていたーーー ー
ー ーーーあれから五年、俺は二十歳を迎えた。
18歳のとき、俺は大学進学を機に地元を離れ、都心近くの大学へ通い始めた。
今日は彼女の、幼馴染みの墓参りのため、2~3年ぶりにこの街に戻ってきていた。
俺は一度実家に寄り軽く両親と会話をしてから、今回の目的を果たすべく家を出た。
彼女の墓。
久々に訪れたそこは、以前と変わらず隅々まで手入れがされていて5年もの月日が過ぎたとは思えなかった。
線香に火をつけ、その場にしゃがんで手を合わせる。
「久しぶり。なんか俺、いつの間にか大人と呼ばれる年になったみたいだよ。
でもね、あまり実感が湧かないんだ…いきなり今日から大人だよなんて言われても、そんな急には…無理なのにね…。」
(そうだよ、急には無理なんだよ。実感なんて湧くわけが無いんだ。
だって俺は君にお別れも言えていない。未だに…信じられていないんだ…。)
きっと、俺は何度そこを訪れようと実感など湧かないのだろう。
その日の夜、何となしに海沿いを歩いていれば、身を切るような冷たい風が磯の香りを運んでくる。
星の光も届かない程の曇天からは今にも何かが落ちてきそうで、
隣に広がる漆黒の海は、そこにぽっかりと口を開けて何もかもを飲み込もうとしていた。
このまま眺めているとうっかり足を踏入れてしまいそうだ…俺は浜辺に繋がる階段に腰掛け、目を瞑り耳を澄ました。
サーッ…ザザザザザ……、サーッ…ザザザザザ……
天気とは裏腹に穏やかな波の音が鼓膜を揺らしなんとも心地が良い。
「お前…こんな所に居たのか……」
しばらくそうしていたら聞き慣れた声が聞こえたので、目を閉じたまま口を開く。
「よぉ…来てたのか。いつこっちに着いたんだ?」
「一時過ぎ位だな。大学寄って来たから。」
そう答えるこの男も俺と彼女の幼馴染だ。
俺たち三人は仲が良く、夏になるとよくこの浜辺で遊んでいた記憶がある。
「そうか。」
ザザザ…
ゆっくりと目を開き海を見た。
相変わらず静かな波音だけが辺りに響いている。
「もう…、あそこには行ったのか?」
あそこ…とは恐らく墓のことだろう。
「行ったよ。…お前は?」
「…俺も行った。……時間が過ぎるのは速いな。なんと言うか、もうそんな時期かって思ったよ。」
「そうだなぁ…アイツが居なくなってから5年経つんだもんなぁ……。5年…、5年かぁ~……」
ポツッ…
コンクリートの階段に黒い染みがひとつ。
ポツッ、ポツッ…
ふたつ、みっつ。
ポツポツポツッ… ザァァァァァァアア……
とうとう降りだしてしまったようだ。
大粒の冷たい雫が全身を濡らしていく。
既に髪はびしょ濡れで、頬を伝っては顎先から落ちてゆく。
隣の男は、何も言わずに海を見ていた。
「なぁ…、俺達、泣いてるみたいだな。」
そう呟けば「……あぁ。」と短い返事が返ってくる。
「お前には、丁度いいんじゃないか。まだ、泣いてないんだろ?」
「…えぇ~?泣いたけどなー…」
嘘だ。泣いたことなんて一度もない。
あの日以来まるで涙なんてはじめから無かったかのように、一滴たりとも流れていない。
俺ってこんなに薄情なヤツだったんだな。
「うーん…まぁでも、うん。そっか、丁度いいか。…そうかもな。」
この後俺のスマホが親からの電話で震え出すまで、俺達はただただ、降る雨を浴びていた。
これが、少年と出逢う5年ほど前の話。
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