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そのまま待っていろ、と言って寝室に消えていった火宮は、何をしに行ったのか。
リビングの床に全裸で四つん這いになったまま、俺はドキドキと鼓動を早めながら待っていた。
何されるんだろう…。
どSの火宮のことだ。
決して楽な真似はさせてもらえないと、今から恐怖で身体が強張る。
「ほどほどで済むといいなぁ…」
希望的観測をポツリと漏らした瞬間、ガチャリと寝室のドアが開いた。
「甘いぞ」
「ッ!」
やばい、聞こえてたか。
タッチの差だと思ったのに、火宮の耳には届いていたらしい。
何かを手にして近づいてきた火宮が、サディスティックに笑っている。
「ククッ。安心しろ。じっくりたっぷり可愛がってやる」
あぁ。俺の呟きと正反対のことを笑顔で言い放ってくれる辺り、やっぱりこの人、どSでどうしようもない。
「意地悪…」
「フッ、覚悟はいいか。仕置きだ」
よくないと答えたら止めてくれる…わけないよな。
「はぁ…」
諦めとともに頷いたら、艶やかな火宮の笑みが向けられた。
「翼、選べ」
「はい?」
「その跡を上塗りして消されるのと、快楽地獄に堕ちるのと。どっちがいい?」
クックッとどこまでも楽しそうに笑いながら、どちらも選びたくないような選択肢を提示してくる。
上塗りって…この上をまた叩かれるってことだよな?
「ムリッ!」
「翼?」
痛いことは全力で遠慮したい。
だからといって快楽地獄って何。
地獄ってつくくらいなんだから恐ろしいんだろう。
「ほら、どっちだ。なんなら両方、って選択もありだぞ」
ニヤリと唇の端を吊り上げている火宮を、ゆっくりと見上げてみる。
「じゃぁ両方なしっていう選択も…」
「ない」
「ですよねー」
わかってる。言ってみただけだ。
「選べないなら俺が決めるぞ」
「っ!やだっ…」
それって絶対両方って言うに決まってる。
「い、痛いのは本当、無理っ…」
やだやだ、と首を振ったら、ふぅん、と意味ありげな火宮の声が聞こえてきた。
「まさか…」
いや、この人ならあり得る。
敢えて俺が選ばなかった方を与えてくる可能性。
「どっ…」
どうしよう。
もう、どちらを選んだらいいのかわけがわからなくなってきた。
チラリと見上げた火宮の顔は、こうして惑う俺を心底楽しむように、愉悦を含んで揺れていた。
「ッーー!」
「翼?」
「っ、もう…もうどっちでもいいです」
「ほぉ?」
「火宮さんの好きな方にして下さい」
希望して裏切られるくらいなら、もういっそ始めから委ねてしまえばいい。
どっちにしたって、結果自体に変わりはないような気がする。
「いいのか?」
クックッと笑う火宮の声色が、少し満足そうだ。
「いいです。任せます」
「両方と言うかもしれないぞ?」
「火宮さんがそう言うなら、それでいいです」
もう腹をくくる。
俺だって男だ。
「フッ、可愛いことを言う。ならば…」
「っ…」
「苦痛は本当に苦手だったな」
「ッ!」
やっぱりそうなるか?
「ならば従順さに免じて、痛いことはしないでやる」
「ふぇっ?」
「ククッ、嬉しいだろう?息が出来ないほどの快楽に溺れさせてやるぞ」
え?
「せいぜい泣き叫んで許しを乞え」
ニヤリと笑みを浮かべた火宮の顔が、妖しく輝いた。
息がって…それ死ぬんじゃ…。
ゾッと這い上がった寒気が、全身をぶるりと震わせた。
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