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ぼんやりと、意識が浮上してきたと感じた瞬間、ズキンッとあらぬ場所から脳天まで、鋭い痛みが突き抜けた。
「っ、た!」
思わず息を止め、動きもピタリと止めてしまう。
わずかに身動ぎでもしようものなら、また同じ痛みに襲われるだろうことは想像に難くない。
「っーー」
どうしたものか。
ぶわっと目に盛り上がった涙が、溢れる一歩手前でフルフルと震えている。
「そっと。そぉっとな…」
恐る恐る、緩慢な動作で寝返りを打つ。
ピリピリと湧き立つ痛みを必死で逃しながら、俺はようやく自分が寝ていたこの場所を認識した。
「って、え?」
いつの間に帰ってきた。
っていうか、いつの間に運ばれた。
恐々見回したこの場所は、いつもの見慣れた寝室で。
俺が寝ているのは馴染んだベッドだ。
あの悪夢のようなラブホから、ここに至るまでの記憶はまったくない。
「火宮さん…」
あの人が運んでくれたんだろうか。
それとも誰かに命じて運ばせたのか。
すでにないその姿を求めて彷徨う視線は、虚しく人の気配のない寝室の景色を映すだけ。
「っ…仕事、行ったんだ」
こんなに酷く、俺を犯した翌日も。
何にも変わらず、日常を送る火宮の姿を想像する。
「当たり前か…」
ただの所有物が持ち主の欲を受け止めきれずに潰れようとも、わざわざ主が心を砕く必要なんかない。
「ありがとうございます」
そうやって冷たくし続けてもらえれば、俺はただのモノでいられるだろう。
ふらりと持ち上げた手が、喉元に残された噛み跡に触れる。
見えないけれど、ポコポコとミミズ腫れのように皮膚が盛り上がった感触が指先にあたる。
「痛い」
スゥッと伝い落ちた涙は、悲しみからか、喜びからか。
自分でもよくわからない感情に揺れ、頬はゆるりと持ち上がる。
「これでいい」
ギュッと締め付けられるように苦しくなる胸の奥も、身体から湧き上がる引き攣るような痛みも。望み通り、消えない傷跡を残してもらえた証だ。
「これでいい…」
何度繰り返したか知れない言葉を、言い聞かせるようにまた何度も繰り返す。
「っ…たぁ」
痛みを得ることを分かっていながら、無理にベッドに身体を起こす。
さらに苦痛と分かっていながら、ベッドの下に足をおろす。
震えた足が崩れて、床にガクリと落ちそうになる。
「ひっ、つぅ…」
転びかけた足を踏ん張ったら、お尻の奥がピシッと痛んだ。
「いいんだ、いい。俺が望んだ。痛くていい」
この先ずっと忘れぬように。
たとえ身体の傷は癒えようとも、決して記憶からは消えないように。
わざわざ痛む身体を引きずってリビングへの扉に向かう。
「くっそ、痛い。痛い…」
ボロボロ涙を零しながらも、一歩一歩前に進む。
その度突き抜ける息を飲むほどの痛みは、火宮が俺を手酷く犯してくれた証。
身体に刻まれた火宮の爪跡なのだ。
「これが、いい」
ギュッと自分を抱き締めるように回した両腕が、切なく震える。
痛いことが、とてもいい。
ザクリ、ザックリと記憶の中に刃となって残るから。
「ふっ、うっ…はっ…」
息を上げて、足を交互に踏み出し、最後は半ば這うようになりながら、俺はなんとかリビングまでたどり着いた。
「おはようございます」
「ッ!」
誰もいないと思っていたリビングに、予想外の人物が静かに佇んでいた。
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