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「すっごい…。分かり易かったです」
真鍋の説明を聞いて、一発で理解できた俺は、応用問題までスラスラ解き切って満足した。
「ご理解いただけてよかったです。では本日はこれまでにいたしましょうか」
「はいっ。疲れたー」
「お疲れ様です。頑張りましたね」
っ!
だから、普段無表情の人が、不意にそうやって笑顔を見せたりするのはズルいって。
あまりに綺麗な笑みに、思わず息が止まる。
「翼さん?」
「いえ…」
「それでは次回までにこちらの範囲を…」
また頭痛がしてきそうなほど広い範囲を示してくれて。
「何かご不満でも?」
「や、いや、別に…」
「もう時間が少ないですからね。どんどん進めていきませんと」
「へ?時間?」
一体何の。
「あぁ、それは会長にお聞き下さい。では私はこれで」
「え…」
何て気になる発言を残していってくれるのか。
さっさと片付けを済ませた真鍋が、丁寧な一礼を置いて帰って行く。
「ちょっ…待っ…」
取りつく島もなく、真鍋の姿はあっさりとリビングから消えてしまった。
夜。
夕食の片付けをちょうど済ませたところに、火宮が帰って来た。
リビングでそれを出迎えた瞬間、火宮の唇が意地悪く吊り上がるのが見えた。
「え…?」
何をしたわけでもないが、この顔をした火宮がろくでもないことを考えているのは経験上よく知っている。
スタスタと目の前まで迫ってくる火宮から、思わず1歩2歩と後退ってしまう。
「な、何…」
「ふん。これは誰の差し金だ」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべた火宮の手が、不意に伸びてきた。
「え?……っ、たいっ!」
いきなり首に指先が触れたかと思った瞬間、ビッと、躊躇も容赦の欠片もなく、真鍋に貰った絆創膏が引き剥がされた。
「っぁあ…」
粘着部分に引っ張られた皮膚がヒリヒリと痛み、視界が滲む。
「ばかひみやぁ…」
本当、どS。
利かせた睨みに威力なんかないだろうことはわかってる。
それでも文句の1つも言わなきゃ気が済まない。
「ククッ、まぁこんな入れ知恵をするのは真鍋か。ったく、せっかくの愛情表現をこんなもので隠すなど」
「は?」
愛情表現って言ったか?今。
「なんだ」
「絶対違うし…」
どう考えたって、見つかって恥ずかしがる俺を想定して、俺を困らせたいがための嫌がらせだろうに。
「言ってくれるな」
「あ…」
うっかり口に出ていたことに気づき、ハッと口を押さえたときにはもう、火宮の瞳が妖しく光り出した後だった。
やばい…。
たらーっと背中を冷や汗が伝う。
「そうか。愛情がまだまだ足りなかったか」
「っ…」
「仕方ない。ではちゃんと伝わるまで、今から今夜もたっぷりと、愛情を表現してやるとするか」
待って、待って、待って。
火宮の愛情表現は、苛めと意地悪とイコールだ。
空恐ろしい方程式が成り立っているのを知っている俺としては、ホイホイ喜ぶわけにはいかない。
「じゅっ、十分伝わってますっ」
「そう遠慮するな。あぁ、荷物が届いているな」
「へ?」
ニヤリ、と笑った火宮が、壁際に置かれた箱に近づいて行く。
え?それって米と日用品じゃ…。
危険がないかの確認のため、開けてものを見ているはずの浜崎はそう言っていたのに。
「えーと?」
食器用洗剤、ハンドソープ。
火宮が次々に取り出し、床に置いていくものは、確かにただの日用雑貨のようだ。
ボックスティッシュに食卓用クリーナーシートに……って、最後に出てきたその小箱は何。
「ククッ。気になるか?」
「っ…」
胡乱な視線に気づかれた。
わざともったいつけて、中身のわからない、なんの装飾もない小箱を振って見せられる。
「きっと気に入る」
やけに楽しげに、妖しく頬を持ち上げた火宮には、嫌な予感しかしなかった。
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