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さっぱりして風呂から上がり、リビングに出てきたら、火宮がゆったりと酒のグラスを傾けていた。
「あ、お先ですー」
「ん」
目を細めて、コイコイと手招きしてくる火宮に素直に従う。
「ほら。たまには付き合え」
スッとテーブルの上に差し出されたグラスが1つ。
赤っぽい、発泡した綺麗な色の液体が入っている。
グラスの縁にはレモンが添えられていて、どう見てもお洒落なカクテルだ。
「あの、俺、酒は…」
「ふっ。シャーリー・テンプル。ノンアルコールだ」
「え?」
「飲んでみろ」
軽く唇の端を上げた火宮を窺いつつ、俺はテーブルの上のグラスに手を伸ばした。
「本当にお酒じゃないんですか?」
「ノンアルコールカクテルは、ジュースだろ」
ククッと笑う火宮を信じて、俺はそっとグラスに口をつけた。
爽やかな甘みがさっぱりとして美味しい。
「んっ、甘いけどさっぱりしてる…」
「ふぅん。おまえ、ザクロと生姜は平気なのか」
緩く弧を描いた火宮の目が、悪戯っぽく煌めいた。
「え!生姜…」
思わず顰めてしまった顔は言わずもがな。
あのピリッとした辛みのある食材を、俺が好きなわけがない。
「クックックッ、あははっ。やはり苦手か」
「っ!は、入っているんですか?」
「あぁ。ジンジャエールがな」
「嘘…。だって美味しいです」
ジンジャエールといえば、俺が避けて通る飲み物の1つのはずなのに。
「おまえの偏食は、食わず嫌いも相当含んでいるだろう?」
「う。それは…」
「ふっ、この先時間はたっぷりある。俺が美味いものの美味い食べ方を教えていってやる」
薄く目を細めた火宮はとても楽しげだ。
俺はその向かいのソファに座りながら、手に包み込んだグラスを再び口に運んだ。
「んっ、美味しい」
「それは何より」
「あ、そういえば火宮さん」
「なんだ」
「時間って言えば…真鍋さんが何か気になることを言っていたんですけど…」
ふと思い出した疑問をぶつけてみる。
「ん?」
「勉強…早く進めないと時間がないとか…」
それは一体どういう意味なのか。
真鍋は火宮に聞けと言っていた。
「真鍋が?あぁそうか。まだ話してなかったな」
「え?」
「ちょっと待ってろ」
不意にソファから立ち上がった火宮が、スタスタと自室に消えていく。
そうして戻ってきた火宮の手は、一冊のパンフレットを持っていた。
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