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間近で上がった衣擦れの音が聴覚を刺激する。
徐々にクリアになっていく意識は、言わずと知れた目覚めの予感。
「んっ…」
両腕をぐんと頭上に伸ばしながら、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
「おはよう」
「っ、ずるいー」
「クッ、何だそれは」
「だって寝起き1番が」
そんな格好いい顔で視界一杯を満たしてくれるなんて。
どんだけ俺を幸せにしたら気が済むんだ。
「ふっ、相変わらずおまえは」
「っ、火宮さっ…」
発しかけた声は、合わせられた互いの唇の中に消えていった。
「んっ…ン」
チュク、クチュッと水音を立てて舌が吸われる。
鼻にかかった吐息が恥ずかしい。
「んっ、はっ…」
今度は寝起き一発目から濃厚なキスって。
嬉しいけど、色々やばい。
「ククッ、本当、感じやすい」
「っ…」
「さて、どうする?このままベッドでイチャイチャか?」
イチャイチャって。
似合わない…。
「それともどこか出かけるか?行きたいところがあれば、どこだって連れて行ってやるぞ」
ふわりと緩むその目が優しい。
「今日お休みなんですか?」
「あぁ。もぎ取った」
「そっかー。火宮さん、疲れてません?」
俺は毎日オフみたいなものだけど、火宮はたまのせっかくの休みじゃないか。
「クッ、誰に言っている。まぁおまえが望むなら、ベッドでのんびりでもいいが…俺とベッドにいて、のんびり出来ると思うなよ?」
あーそうでした。絶倫どSの意地悪火宮でした。
「出かけたいですっ」
「クックックッ、じゃぁデートだ。行き先は、朝食が済むまでに考えておけ。ルームサービスを頼んでおく」
「でっ…」
「ん?」
デートって響き、やばい…。
「なっ、何でもないですっ。シャワー浴びてきます!」
ニヤニヤと笑っている火宮は、俺が照れていることを多分見抜いている。
変に揶揄われてはたまらないと、慌ててベッドを飛び出したら…。
「うわぁっ!」
当たり前というか、何というか、昨日シたまま眠ったせいで、真っ裸のままだった。
「ククッ、いまさら」
反射的に蹲って丸くなり、少しでも肌を隠した俺を。火宮はさも楽しそうに見下ろしてくる。
「だって…」
恥ずかしいものは恥ずかしい。
抱き合うときに見られるのと違って、裸で歩く姿を見られるとか…。
「ふっ、最後の1打のやつだけ、跡が微かに残っているな」
「え?」
「痛みは?」
何の話だ、と思って床から火宮を見上げたら、ニヤニヤと楽しそうに、しゃがんだ俺のお尻を見てた。
「っー!」
忘れたい。
あんな、お仕置きを受けた昨日の記憶なんて。
「翼?」
「ばか火宮ぁ…」
じわりと浮かんだ涙は別に、痛みがあるからじゃない。
むしろ言われなければ何の違和感もないそこを、逆に思い出させるな。
「ククッ、何の後遺症もないようで安心だが、ついでに何の仕置きの効果も残らなかったようで」
キシリとベッドが揺れる音がして、火宮が床に下り立ったのが分かった。
「っ!」
「薬で感度を上げていたから、加減はしたが、念のためと痛みを確認したのだが…」
「っ、あ…」
「むしろ翌日に多少の痛みが後を引くくらいキツく打った方がよかったか?」
スッと目の前にしゃがんだ火宮が、クイッと顎を捕らえてきた。
「何で仕置きを受けたか覚えているか?」
「っ…。ぼ、うげん…。ばかばか言ったから…」
「ククッ、分かっていてまた言うとは、それは仕置きのやり直しの催促か」
ん?と目を眇めた火宮がやばい。
「ち、がうっ…嫌ッ」
スイッチが入る顔をしているのが分かって、俺は慌てて首を振った。
だけど、捕らえられた顎のせいで、それは小さな身じろぎにしかならなくて。
「ククッ、今度は薬無しでぶってやろうか。鞭はさすがに可哀想だから、平手にしてやるが。優しいだろう?」
「っ!」
どこがっ?!っていうか、何がっ、っていうか、もうあれもこれも突っ込みどころが多すぎて、反対に何も言えなかった。
「ほら」
「っ、いや、いやっ、いやぁーっ!」
グッと腰を抱えられて、お尻を持ち上げるようにされて、俺は慌ててジタバタと手足をもがかせた。
「お願いっ、許して、ごめんなさいー!」
恥ずかしいことも、気持ち良すぎることも嫌だけど、痛いのはもっともっと嫌だ。
痛いことと怖いことは、何より嫌い。
「もう言いませんからーっ!」
もがけど暴れど火宮の腕からは逃れられずに、これでは本当に叩かれる、と覚悟を決めてギュッと固く目を瞑った。
「ククッ、なんてな」
「っ、あ…」
覚悟を決めたお尻に落ちてきたのは、痛い痛い平手ではなく、チュッと優しい火宮の唇だった。
「するわけないだろう?おまえを痛めつけるだけなど」
いや、できるわけない、か。と小さく呟いた声が聞こえて、全身からドッと力が抜けた。
それと同時に胸がキュンとなる。
『本当、ずるい』
こんなに愛されていいんだろうか。
ふとしたことが幸せで、胸がぎゅうと苦しくなる。
じわぁ、と滲んだ涙が一粒、パタリと床に落ちて弾けた。
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