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その夜は、残業が長引いたのか、俺が待ちくたびれて寝てしまうまで、火宮は帰って来なかった。
ベッドに入って眠りに落ちてから、どれくらい経ったのか。
ふと、頭に触れる優しい温もりに気付いて、目が覚めた。
「んっ…?ひ、みやさん?」
ぼんやりとした視界に、薄っすらと人の輪郭が見えた。
「あぁ、悪い。起こしたか?」
「ん、いえ…。お帰りなさい…」
「クッ、寝ぼけているのか?」
んー?
ふらりと伸ばした手が、火宮の温もりに触れてホッとする。
催促するように突き出した口に、迷わず重なる火宮の唇が嬉しい。
「刃。じんー」
ふにゃぁっ、と緩んだ顔は分かってた。
何だかとても甘えたい気分で、目の前の温もりにぎゅうぎゅう抱きつく。
「寝ぼけているな」
ククッと笑う声が耳に届く。
夢なんだか現実なんだかわからないけど、ただ手に触れる温かさは確かなものとして伝わってくる。
「クッ、勉強の弛みを口実に、仕置きと称してたっぷり可愛がって啼かせてやろうと思っていたのに」
「じーんー、好きぃ」
「こいつは、まったく。こんなに愛おしく、可愛いものを…俺が目移りするはずもない」
ピンッと弾かれたデコを感じて、意識が一瞬ビクッと覚醒した。
「えっ?」
「ククッ、おまえに飽きる日も、おまえを手放してやる日も絶対に来ない。覚悟しておけ」
「ふぁっ…んーっ?」
気のせいか。
瞼が、とても重い。
「手始めに明後日だ。おまえのくだらない不安を消してやる。予定、開けておけよ」
「あ、さ、って…?デート?」
えへへー、と笑ったら、むぎゅっと鼻をつままれた。
「それ以上可愛い態度で誘うようなことを言っていると、叩き起こして襲うぞ」
「んー?うんー」
何を言われているのか、何を言っているのか、夢現を彷徨う俺は、半分も理解していなかった。
「クッ。出来ない、な…」
そっと額を撫でる手が気持ちいい。
耳をくすぐる柔らかい低音が心地いい。
「この俺に、こんなに愛されていることを自覚しろ。この、ばかもの」
チュッと額に触れた柔らかいものは何だろう。
耳に触れる優しい響きが、夢の中まで届いてくる。
「ゆっくり休め」
「んふ…」
何だかとても幸せで、とても温かい夢を見ているような気がした。
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