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トイレを済ませて出てきたら、手枷を持った火宮が待ち構えていた。
「う…」
ネクタイと違って、明らかに専用の道具というのに怯めば、火宮の目がスゥッと眇められた。
「ククッ、約束だぞ?」
「分かってます…」
渋々両手を揃えて前に突き出したら、火宮がククッと喉を鳴らした。
「嫌そうだな」
「それはそうでしょう?なんか、逮捕されるみたい…」
「ふん、俺をサツと一緒にするな」
「あー、敵でしたねー」
ふふ、と笑ってしまったら、火宮の唇が意地悪く吊り上がった。
「翼、先に服を脱げ」
「はい?」
「これをしたら脱げなくなるからな」
まぁ、手枷をした後に脱ごうとすれば、当然手のところで服が引っかかるけど。
「脱ぐって何で…」
「ククッ、風呂に入らないつもりか?」
「っあ…」
そうだ。そんな厄介なものがまだ残ってた。
「えーと…」
「ふっ、安心しろ。手が使えない分、俺が優しく丁寧に髪も身体も洗ってやるからな」
ニヤリ。
ようやく火宮がトイレを許した意図が読めた。
「っ!最初からそのつもりで…」
「ククッ、何のことだ」
「っー!どS!」
「約束したのはおまえだ」
そうだけど…。
「反故にするつもりか?」
「っ、いえ!しませんよっ」
俺だって男だ。二言はない。
一度した約束は、ちゃんと守ってやる。
「ふっ、いい目だ」
「あ、まり、見ないで下さい…」
覚悟は決めたけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
スルリと服を脱ぎ去った俺は、再びズイッと火宮に両手を突き出した。
「ククッ、やけに従順だな」
「っ…」
カシャと手首に嵌ったリストバンドのようなもの。
2つの間は短い鎖で繋がれていて、ほぼ両手の自由はないに等しい。
「ふっ、翼。俺に委ねろ。身も心もすべて」
「っ…」
「おまえの全てを愛してやる」
緩く唇を吊り上げた火宮が、両手の自由を奪った手枷を撫でる。
あぁ重い。
重いけれど、これが火宮の独占欲と愛。
「あなたにだけです」
こんな風に理不尽なものいいも受け入れられるのは。
大人しく拘束されることも許せてしまうのは。
「好きなんだもんなぁ…」
火宮だけが、ただ1人。
何を言われたって、何をされたって。
決して嫌いになれないんだからもう、惚れ抜いているのは俺も同じだ。
だから妬かなくたっていいのに。
手料理くらい、お裾分けしたって俺の気持ちは分散しないし減らないのに。
「行くぞ」
ククッと笑った火宮に手を引かれ、俺はフラフラとそのまま浴室へ連れて行かれた。
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