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温度の低いシャワーを浴びて、とにかく冷静になろうと頭を冷やした。
ゆっくりと排水口に流れていった水は、薄っすらと赤く血の名残を見せていた。
「…あぁ。分かった…」
シャワーを済ませ、バスルームからそっとリビングに出て行ったら、火宮が誰かと電話をしていた。
ちょうど話が終わったところなのか、ゆっくりと下される火宮の手が見える。
「あの…」
「あぁ翼。浜崎の手術が終わったそうだ」
「っ!それでっ?!」
「命に別状はない」
「っぁ、本当に?…良かったぁぁ」
真鍋さんからだったんだ。
火宮がくれた情報に、ホッと力が抜けた。
「俺っ、俺…」
本当に良かった。
きっと大怪我をさせてしまったけれど、だけど命までもは失わなくて。
ガクンと力の抜けた膝が、床に落ちた。
「翼っ、大丈夫か?」
「あ、はい。あはは、何か気が抜けて」
無様に転がる寸前で抱きとめてくれた火宮の手が助かった。
ありがとうの気持ちを込めて見上げた火宮の顔は、けれどやけに冷たく固くて…。
「おまえはそんなに浜崎が…」
「え?」
何だろうか。
ボソッと呟かれた火宮の声が低すぎて、うまく聞き取れなかった。
「いや。とりあえず、今はまだ麻酔で眠っているようだが、すぐに目を覚ますだろう」
「そうですか。じゃぁお見舞い…」
明日には話せるだろうか。
ちゃんと会ってお礼を言いたい。
謝罪も。
「見舞い?そんなものはわざわざ行かなくていい」
「え…?」
あまりに予想外の言葉すぎて、思わずポカンと口が開いた。
「浜崎はただ自分の役目を果たしただけに過ぎない。おまえが労わなくても、真鍋辺りに行かせればいいだろう。幹部が来たとなれば浜崎も喜ぶ」
だから何なの、この人…。
お見舞いっていうのは、そういう義務的なものじゃないよね?
「火宮さん、俺は…」
だって浜崎さんは俺の盾じゃないんだよ?
きっと痛かった。
怖いし苦しかっただろうし。
それでも身体を張って、俺を庇ってくれた、とても勇気のある人だから。
血も涙も通ってる、生身の人間なんだから。
「翼?」
不思議そうに俺を見つめる火宮にとっては、浜崎がまるでもののようで…。
「あぁ…」
あぁ、そうか。
火宮の視線の意味が、今分かった。
仕事だからと言い切り、身を投げ出すことを当たり前だとあっさり告げた。
死んでも仕方なかったと簡単に割り切りれる、あの冷たく心に触れた火宮の言葉たちは…。
「あなたは血を見ることに慣れすぎている…」
「なんだ?」
「人の死に、あまりに慣れすぎている…」
だから分からない。
だから、遠い。
付き合い始めてこれまでで今が1番、火宮との心の距離が開いているのを感じた。
「ごめんなさい、火宮さん。少し1人にして下さい…」
「翼?」
今の火宮の側にはいられない。
「翼、どうし…」
「ごめんなさいっ…」
疑問調の火宮の呼び声が聞こえたけれど、俺はガバッと一礼して、さっと寝室に逃げ込んだ。
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