アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
233
-
ーー翼。翼…。
大好きな美貌が、淡い微笑みを浮かべて、両腕を広げて俺を待っている。
『火宮さん!』
ーー翼。
『火宮さんっ、よかった!』
銃で撃たれたって聞いたのに。
どこも何ともなさそうな姿にホッとする。
やっぱり何かの間違いだったんだね。
真鍋さんが驚かすから…。
タンッと地面を蹴って、腕を広げた火宮の胸に飛び込んで行く。
『火宮さん、大好……え』
ヌルッ?
『え?』
火宮に抱きついた手に、変な感触が。
『っ!』
恐る恐る火宮から離れ、両手を見下ろした、そこに。
『あ、あ、あ、あぁっ…』
真っ赤に染まった手のひらが。
なに、これ…?
ヌルヌルしていて、ベトついて。
『っ…』
ゾクッと震えた身体の意味は。
ーー翼。
『っ、ひ、みや、さん?』
なんで、なんでそんなに切ない顔を。
『火宮さんっ、嫌だ』
なんだか火宮が遠ざかってしまいそうな気がして、俺は慌てて手を伸ばした。
ーー翼。
違うよ、違う。
火宮が俺を呼ぶ声は、もっと甘くてもっと色っぽくて。
そんな苦しそうな、そんな胸が締め付けられるような、辛い声じゃないんだから…。
ーー翼…。
『っ!や…いや…』
両手の赤が灰色に変わり、サラサラ、サラサラと、指の隙間から落ちていく。
『嫌っ!嫌、火宮さんっ!』
火宮の肩に大きな穴が開き、血の代わりにサラサラと、灰色の砂が風に流され飛んでいく。
『火宮さんっ…』
ーーつ、ば、さ…。
ふわりと微笑む火宮の笑顔が、サァァッ、と砂のように崩れて、風に吹かれて消えていく。
身体が、足が、徐々に崩れて、おんなじように風に流され、煌めく砂の欠片になって宙に舞う。
『火宮さんっ!』
伸ばした手は何も掴めず、ただ空中を虚しくもがいた。
『嫌ぁぁぁっ!火宮さんっ!』
「翼さんっ!」
「っ?!…はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
「翼さん、大丈夫ですか?」
「あ、れ…?俺…」
ぼんやりとした目の向こうに、心配そうに覗き込む真鍋の顔が見えた。
「翼さん?随分とうなされていましたけれど」
スッと伸びてきた真鍋の指先が、俺の目元を軽く拭った。
「っ、そうだ火宮さんっ!」
ガバッと上半身を起こしたここは、見慣れたリビングのソファの上で、俺は真鍋に見守られながら眠っていたことがわかった。
「真鍋さん、火宮さんは…」
酷く嫌な夢を見ていた気がする。
火宮の身体がこの手から擦り抜けて消えていってしまうような。
「っ…」
ゆっくりと左右に振られた真鍋の頭をみて、ぎゅぅ、と胸が苦しくなった。
「意識は、まだ。状態は安定しているそうですが」
「そ、です、か…」
あれは夢だ。
大丈夫、火宮はちゃんと生きている。
急変した様子もない。
「っ…」
側に、いきたい…。
拳を固く握り締め、漏れそうになる言葉を必死で堪えた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
233 / 781