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「火宮さん、ただいまです」
そっと定位置の椅子に座り、温もりを確かめるように火宮の手を握る。
「ねぇ火宮さん。目を覚ましたらね、お話ししたいことがあるんですよ」
ポケットに入れた紙に手を触れて、そっと囁いた。
「聞こえてますか?火宮さん。俺はここです。ここで、ずっと火宮さんを待ってます」
聴覚は舐めたものじゃない。
医者のその言葉を信じて、ひたすら話しかける。
「待ってますよ、火宮さん。あなたの居場所はこっちです。あなたが帰るところは、俺のもと…ですよね?」
きゅっと力を込めた手が、ピクンと震えた。
「え…?」
いや、今震えたのって、俺の手…だよね…?
「ひ、みや、さん…?」
震える手で、もう1度、火宮の手をきゅっと握る。
「っ…」
その手が、確かに、ピクピクッと震えた。
「っ!火宮さんっ!」
今のは違う。
絶対に俺じゃない。
「火宮さん!刃っ!」
ガタンと椅子を蹴倒して、慌てて火宮の顔を覗き込む。
「刃っ…」
スゥッ、と大きく胸が上下して、ピクピクッと瞼が痙攣した。
「刃っ!先生っ、真鍋さんっ…」
ガラスの向こうには、幸いまだ真鍋の姿がある。
こちらを監視できるスタッフステーションにも、医者の姿が見えている。
「っ…火宮さんっ…」
震えた火宮の瞼が、ゆっくりと持ち上がる。
「火宮さん…」
漆黒の、俺の大好きな瞳が見えて、ぶわっと目に涙が溢れた。
「先生っ…」
「うん、意識が戻ったかなー。ごめんね、ちょっとだけよけていて」
「はい…」
バタバタと駆け込んできた医者が、あれやこれやと火宮を診て、機械をいじって処置をしていく。
脇によけてじっとそれを見つめる俺の目の先で、呼吸器の管が抜けた火宮の口が、ゆっくり、ゆっくりと動いて言葉を形作った。
「つばさ」
っーー!
叫び声も喜びも、返事も何も声にならなかった。
ただただ涙が溢れる。
ただただ嗚咽が漏れる。
歓喜で胸が震え、パクパクと喘ぐだけの口を両手で覆い、震える足を一歩踏み出す。
「翼…」
2度目の、さっきよりもはっきりとした呼び声が聞こえた瞬間、ガクンと全身から力が抜け、ヘナヘナと床にへたり込んでいた。
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