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真鍋が、火宮に何をどう伝えたものか。
俺は無事、車中の人となっていた。
ドキン、ドキンと脈打つ鼓動は、紛れもなく緊張から。
血生臭いこととは縁遠く、これまで一般世界でのうのうと生きてきた俺に、これから目にするだろう惨状を、どこまで直視することができるのか。
覚悟はあっても自信はない。
本能的な恐怖や嫌悪を、万が一にも宿さないとは限らない。
ゆっくりと、火宮たちがいるという倉庫に近づくにつれて、緊張が最高潮に高まった。
「着きました。翼さん」
人気のない、大きな倉庫が目の前にある。
搬入口だろう大きなシャッターは下りていて、車から降り立った真鍋は、迷わず通用口に向かった。
ドクン、ドクンと跳ねる鼓動を落ち着かせながら、俺は静かにその後に続いた。
ガチャン、と扉が開き、薄暗い倉庫内の様子がゆっくりと見えてくる。
広く、所々に積み上げられたコンテナや謎の木箱、転がったドラム缶が見え、冷えた空気がふわりと頬に触れた。
っ…。
パァッと広がった外の光が、真鍋と俺を飲み込んでから、スゥッと細まり、最後にはパタンと外界との繋がりを遮断する。
ゆっくりと足を踏み出した真鍋に続いた俺は、高い位置にある窓から差し込む光に浮かび上がった、数人の人影を目に捉えた。
っ、ぁ…。
覚悟していたような、むせ返る血の匂いがするようなことはなかった。
けれども立っている男たち…多分火宮の部下だ…に囲まれた地面で、這い蹲って呻き声を上げている数人の男たちがいることは認識できた。
先輩たちだ…。
殴られ、蹴られ、それなりに怪我をしているのだろう。
誰一人として、起き上がろうとしている様子がないのが見て取れる。
火宮さん…。
立っている男たちの間、ちょうど真ん中あたりに、椅子に座って足を組み、悠然と構えている火宮がいた。
その口元には、薄笑いが浮かんでいる。
ゾクッと腕に鳥肌が立った。
「会長」
思わず立ち止まってしまった俺に構わず、真鍋がスタスタと火宮の傍らに向かい、その耳元にそっと顔を近づけた。
っ…。
ゆっくりと、火宮の顔がこちらを振り返る。
その目がスゥッと薄く細められて、笑みを消した口元が、そっと開いた。
「翼」
ぎゅっとノートを持った手に力が入る。
俺は、ギシギシと音がしそうな身体をどうにか動かし、ゆっくりと火宮に近づいた。
っ!
近づいて分かった。
地面に転がった先輩たちは、鼻から、口から血を流し、個の判別がつかないほどにボコボコに顔を腫れあがらせていた。
手足がおかしな方向に曲がっている人もいる。
「翼」
思わずそちらを凝視してしまった俺は、火宮に呼ばれてハッと意識を戻した。
っ…。
スッ、と差し出された手は、ノートを寄越せという催促か。
小さく震えた手を持ち上げて、俺はそっとノートを手渡した。
火宮の後ろ姿は変わらない。
苛立ちに揺れることも、苛烈なオーラが湧き立つこともなく、ただ最初に見た姿勢のまま、悠然と椅子に座っている。
周囲に控えた男たちは、無言でじっと立ち、先輩たちに圧力を与えている。
「真鍋」
ひと通り、俺が書いた文面に目を通したのか。パタン、とノートを閉じた火宮が、振り返ることなくそれを真鍋に手渡した。
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