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✳︎暴力・流血表現、過激な描写を含みます。
ご注意下さい。
「口を使ったのは、どいつだ」
低く物理的な力さえ感じる火宮の声が響いた。
ビクッと身を震わせた先輩の1人がいたことには、俺ですら気づいた。
あ…。
顔の見分けはつかないんだけど、今動いたのが、その人だろう。
「池田、その右から2番目のやつだ」
「はい」
火宮が冷たく言い放った瞬間、言われた先輩がガタガタと震え出した。
っ…。
ズルズルと、先輩の1人が火宮の前に出される。
完全に怯えきった先輩の目が、赦しを乞うように火宮を見上げた。
その様は、あまりに憐れで、そして無様だ。
今さらなんです…。
選んだ相手が悪かった。
だけど性的暴行だなんて、そんな卑劣な行為を目論んだあなたに同情はしない。
黙ってじっとその先輩を見つめていたら、火宮の低く冷たい声が響いた。
「剥げ」
火宮に命じられて動いた池田に、先輩は、ズボンを、下着を剥ぎ取られる。
完全に恐慌状態に陥って暴れる先輩を、他の構成員がたやすく押さえつけていた。
「会長」
「あぁ。切り落とせ」
ヒッ、と息を飲んだ先輩と、ビクッと俺が肩を跳ねさせてしまったのは、ほぼ同時だった。
まさか…。
「俺のイロに触れたな。口を汚してくれた礼だ」
「ヒッ、ヒィッ、た、助けて!赦してくれぇぇっ…」
ギラッとナイフの刃が光を弾く。
悲痛な叫びに重なって、ザシュッと肉を裂く嫌な音が聞こえた。
っ!
声が出なくてよかった。
でなければ俺も、先輩に負けず劣らずの悲鳴を上げていただろうから。
ひ、どい…。
血がドクドクと流れる地面。躊躇いなく振るわれる刃。白目を剥いてピクピクと痙攣を起こす先輩の姿から、それでも俺は目を逸らさない。
これは、火宮の罪。
そして、俺の。
「次はどいつだ。俺の唯一最愛のイロの、大切な場所を汚した指」
切り落とせ、と命じる火宮から、先輩たちがジタバタと逃げ惑う。
まるで地面で溺れているみたいだ。
這ってもがいてズルズルと動く身体は、数センチも進んでいない。
「ヒィッ、赦してくれぇぇっ」
「ウギャァァッ!」
「ヒギィッ…俺の、俺の…アハハハハ」
地獄絵図、というのはこのことか。
ふわりと鼻につく鉄臭さが、目に映る鮮明な赤色と重なって、これが現実の出来事だと教えてくれる。
血が、じわりじわりと地面に広がり、混ざり合ったいくつもの液体が、ぐちゃぐちゃに地面を汚している。
ポタリ、と池田が手にしたナイフから、血が一滴したたり落ち、構成員たちが動きを止めたところで、ゆっくりと、火宮が組んでいた足を解いた。
「ふん。全員息はあるな?」
チラリと確認した火宮に、池田たちが頷く。
狂ったように笑っている先輩、呻くだけで動けない先輩、ガクガクと震えて涎を垂らし、放心状態の先輩。
それでもかろうじて、全員生きてはいた。
「最後に聞く。主犯は誰だ」
ピン、と空気が張り詰めた。
火宮がゆっくりと、椅子から立ち上がる。
ギクリと身を強張らせた先輩たちが、チラチラと1人の先輩に視線を送った。
「貴様か」
スゥッと細められた火宮の目が、先輩たちの視線を集めた1人に向く。
手のひらを上に向けて差し出された火宮の手に、真鍋がどこから取り出したか、すかさず拳銃のグリップを乗せた。
カツン、と革靴の足音を響かせた火宮に、ビクンッ、と身を竦ませた先輩が、無意味に首をブンブンと振り回す。
「年は」
ガチガチと歯を鳴らす先輩から答えは得られず、真鍋が横から口を出す。
「18でしょう」
「そうか。短い人生だったな」
ニヤリとも、ニコリともしない、完全な無表情。
てっきり怒りのオーラや、苛烈な激昂を見せるかと思いきや、ただ淡々と、むしろ怖いくらい静かで凪いだ様子で、火宮は先輩に向かって歩いていった。
「最後に言い残すことはあるか?あぁ、うるさい命乞いなんかをしたら、その舌、初めに引っこ抜いてやる」
そんな明らかな脅し文句を吐かれ、口が利ける人間がいたらお目にかかりたい。
当然先輩も、ただプルプルと身体を震わせるだけで、何の言葉も出ないようだった。
「安心しろ。一応は堅気だ。1発で楽に逝かせてやる」
嬲り殺しはしない、と火宮は言うが、散々拷問の目に遭わせておいて今さら言う台詞じゃない。
カツン、とまた1つ、先輩との距離を縮めた火宮を見て、俺はそっと1つ息をついた。
そのままグッと足に力を込めて、タンッと地を蹴る。
「ッ…」
流石の真鍋も反応が遅れたか。
俺は俺の行動を、誰にも邪魔されることなく、バッ、と両腕を広げて、火宮と先輩の間に立ち塞がった。
「翼さんっ?!」
ジッと火宮の闇色をした目を見つめる。
「翼」
咎めるように吐かれた火宮の声が分かったけれど、俺は引かない。
ーー殺させない。
音を作らない言葉を口に乗せた俺に、火宮の睨みが向く。
「そこを退け、翼」
ドスの効いた低い声を出されても。
俺は、ジッと火宮を見つめたまま、はっきりと首を左右に振った。
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