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「それで翼、本当に大丈夫か?」
キュッ、と俺の制服のネクタイを締めてくれた火宮に、俺はムゥッと恨みがましい目を向けた。
大丈夫かって、大丈夫じゃなくしたのはあなたでしょうが。
昨日はあれから午前中いっぱい、お仕置きとか、お仕置きとか、お仕置きとか。
さすがに午後は出勤して行った火宮のおかげで、少しは休めたけれど、それでもこうして怠さが残るくらいには好き勝手してくれて。
「ククッ、あぁ、そっちの心配もあったか」
そっちの、って、他に何があるんだ。
俺にはこの腰の痛みとか全身の怠さとか、かなり深刻なんだけど。
俺の表情から何を読み取ったのか、ニヤリと悪い笑みを浮かべた火宮が、ポンと頭に手を置いた。
「それはおまえの暴言のせいだろう?そうじゃなくて、俺が言っているのは、こっちだ」
そっと唇に滑って行った指が、スゥッとその形をなぞった。
あぁ、なんだ、声。
『大丈夫です』
学校側には、事故に遭ってそのショックで口がきけなくなったって言ってくれてあるんでしょう?
『きっとフォローしてくれるだろう人もいるし』
多分、豊峰と紫藤は何だかんだと助けてくれるんじゃないかな。
それからノリとタクトも。
「そうか。だが無理はするなよ。気分が悪くなったり帰りたくなったりしたら、すぐに連絡を入れろ」
『あ。浜崎さんのメアド』
知らないんだけど。
声が出ないから電話が出来ない。
「あぁ…俺も知らん」
知らん、って…じゃぁどうすれば。
「ほら。これが真鍋のだ。そこにメールを送ればいい」
サラサラと、俺の筆談用メモ帳にアドレスが書かれた。
「漏らすなよ」
『はい』
緊張しながらメモ帳を受け取って、俺はそれをポケットにしまった。
「じゃぁ行くか」
玄関までエスコートしてくれる火宮の目が、いつまでも心配そうだ。
ふふ、くすぐったい。
でもありがとう。
パッと火宮を見上げた俺は、ぐっと伸び上がって爪先立ちをして、チュッ、と火宮の頬にキスをした。
「だからおまえはな」
ベッドに逆戻りさせるぞ、と意地悪く笑う火宮だけど。
そーんなデレッとした顔で言われても、何も怖くないですからね。
にぃっ、と笑ってしまった顔は自覚した。
「こいつは…」
ん!
ちょっ…。
くいっと顎を掴まれて、何かと思えば、仕返しとばかりのディープなキス。
歯列の裏をなぞり、舌を絡め、顎の裏を舐められて、ゾクゾクと快感が湧き上がる。
やば…。
ズボンの前がわずかにきつくなり始めたのを感じて、俺はワタワタと慌てる羽目になった。
もっ、だめ…。
カクンと腰の力が抜けたところで、ふと第3者の気配が現れた。
「はぁっ。お2人とも、お時間です」
ハッとして火宮の胸に腕を突っ張り、唇を引き剥がした俺は。
っーー!バカ火宮ぁぁっ。
玄関のドアの中に立ち、シラッとした無表情…いや、あの目に浮かんでいるのは完全な呆れだ…で、俺たちを見ている真鍋を見つけて、全力の、声なき声で叫びをあげた。
「クックックッ、奥さん?下の車までお送りしましょうか」
ニヤリ、と、完全に悪い顔の火宮が、わざとらしい丁寧語と共に、ひょいっと俺を抱き上げた。
それをまた、真鍋が盛大な溜息とともに迎えてくれていた。
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