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うふふふ。
誰の目も気にせずに、ぎゅっ、と手を繋いで、ゆったり歩く木立の間から、薄く木漏れ日が差している。
うーん、空気が美味しい。
「空気が美味いな」
マイナスイオンたっぷりって感じ。
「マイナスイオンとやらか」
「………」
「ん?なんだ。どうした?」
思わず立ち止まってしまった俺を、火宮が不思議そうに見下ろしてくる。
っ…。
もう、なんなの。
声の出ない俺の言葉が届いたわけがないのに。俺が思っていることと、まったく同じ事を口にするとか。
ずるい。
こんなにピッタリ。
こんなに簡単に、俺の心を温かくしちゃうんだから。
やばいなぁ。
ーーもう、本当、好き。
重なる心が嬉し過ぎて。あまりに幸せで。
繋いでいた手を腕まで絡めて、ぎゅーっとぶら下がるように引っ付いた俺に、火宮がクックッと喉を鳴らした。
「その顔」
あー?幸せで緩み切っちゃってる?
「誘っているのか」
はぁっ?
「その熱っぽい目。なるほど、野外でというのも、また新しい試みか」
ちょっ、待っ…。
ニヤリと頬を持ち上げて、ジリジリと迫ってくる火宮は、何を考えているのか。
外でとか、ない!
それに、俺には分からないんだけど、護衛の人、どこかについて来て、見てるんだよね?
「クックックッ、おまえもなかなか好き者だな」
っーー!だから嫌だってば!
たまたま側にあった大きな木に、背中を押しつけられて、両手を頭上に纏めて押さえつけられて。
股の間に割り込んだ膝が、グリグリとソコを刺激してきた。
「クッ、翼?」
ニヤリ、と悪い笑みを浮かべた唇が、ゆっくりと迫ってきて。
んっ、ン、んーっ…。
全力の抵抗の意味で、歯を食いしばって、絶対に口を開けてやるものか、と意思表示する俺の唇を、火宮の舌がペロペロと舐めた。
その時。
『っ…ぁ、ゎ…』
ガサッと、どこか木陰の方で、人が動く気配がして、フッと火宮の手が緩んだ。
「チッ…」
凶悪な舌打ちと、鋭い視線がそちらに向けられる。
あ、浜崎さん…。
思わずそちらを向いた俺の目に、他の護衛の人に、バシッ、とか、ドカッ、とか、叩かれ蹴られしている浜崎が見えた。
攻撃から身を庇いながら、「すんません」と言わんばかりに、ペコペコと頭を下げているのは、うっかり過剰反応して、火宮の邪魔をしてしまったからか。
いやいや、俺は助かったー。
「ありがとうございます」と、ペコンと頭を下げたら、火宮にパシッとその頭を叩かれた。
「ったく、人選ミスだな。あいつは真鍋に言って減給だ」
えーっ、浜崎さん、ファインプレーでしたよっ。
うっかり浜崎に内心でエールを送ってしまったら、隣から不穏な空気が漂った。
「ん?なんだ、翼。浜崎の味方をする気か?」
だからっ、なんでなにも言ってないのに分かるわけ?
「ほぉ?そうか。これは、仕置きだな」
っーー!
なんでそうなる。
一難去ってまた一難とか…。
思わず助けを求めるように、チラリと浜崎たちの方に視線を向けたら、他の護衛の人に引っ張られたのか、ビュンッ、と木の陰に消えていく浜崎の足が見えた。
っ、味方が…。
今度は完全に姿を消し、気配まで断ってしまった護衛たちに絶望する。
「さて、どうしてくれようか」
っーー!野外とか、絶対に無理だからっ!
嫌だー、と、全力で火宮を突き飛ばし、身を翻してダッシュで逃げる。
「クックックッ、そうくるか」
後ろから聞こえた火宮の声は、なんとも楽しげで。
火宮が本気なら、多分、俺を逃すなんてことはしなかっただろう。
だからちょっとだけホッとして、けれど脅しなんてする意地悪な恋人に、心の中で盛大に舌を出しながら、俺は火宮が見失わない程度の速さで、びゅん、と木々の間を走って行った。
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