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回廊から戻った室内は、照明が絞られ、薄暗かった。
寝室へ続く襖は開け放たれていて、簾越しにぼんやりと、行灯のあかりがともっているのが見える。
っ…な、なんか、ヤラシー。
柔らかい橙と黄色を混ぜたような色の光が、簾の向こうに、並んだベッドを浮かび上がらせている。
「ククッ、どうした」
思わず両手で顔を覆ってしまったのを笑われた。
でもだって、なんかこの感じって…。
別に欲情を誘うための演出ではない。
あくまでそこは眠る場所で…だけど、だけど。
「ククッ、なんだ」
っ…。
「ん?殿様の寝所みたいで、情事を連想する、か?」
そう、それ!
じゃなくて…なんでこの人、言ってないのに分かるわけ。
クックッと喉を鳴らす火宮をまじまじと見つめたら、ニヤリと妖しく笑う顔と出会った。
「だから、おまえの考えていることは、俺には筒抜けだ、と言っているだろう?」
なにそれ。エスパー?さとり?
「超能力者でも、特殊能力者でもない」
またバレてるし。
「強いて言うなら愛だな」
なっ…もう!
大真面目な顔をして、そんな照れ臭い言葉を平然と…。
「ククッ、どうする?せっかくだし、殿と小姓ごっこでもするか?」
この人はぁっ。
もう本当、時々壊れるよね…。
「ん?」
しませんからっ、そういう変なプレイ。
ツン、とそっぽを向けば、抱かれた身体がゆらゆら揺れた。
「ククッ、なんだ、つまらん」
えっちに面白さとかいらない…。
思わず脱力したところで、ベッドにたどり着いた火宮が、ふわりと優しく俺をそこに下ろしてくれた。
わぁ、やっぱりなんか、色気が…。
和室で、行灯のあかりで、浴衣で。
いつもと違った空間。いつもと違った雰囲気が、なんかクる。
火宮さん…。
仰向けに横たわったまま、ふわりと伸ばした両手を、真っ直ぐに火宮に向ける。
緩やかに、弧を描いていった火宮の口元が、蕩けるような甘い声を紡ぎ出した。
「激しくか?優しくか。翼の望むようにしよう」
っ…。
穏やかに微笑むその顔はズルい。
どんなに砂糖たっぷりのケーキより、どれほど濃厚な蜂蜜より、火宮が俺を見つめる目が甘い。
囁く声が、甘く蕩けて浸透し、俺の全身を溶かしてしまいそうだ。
ん…火宮さん。
優しく。
だけど激しく。
ぎゅっと引き寄せた身体に顔を寄せて、チュッと口付けをする。
欲張りなんです、俺は、とても。
その上、火宮さんが愉しめるようなのがいい。
出ない声の代わりに、精一杯の思いを込めて抱きついた俺を、火宮の優しい腕が抱き返してくれた。
「優しく、激しく、俺色か」
っ!
完璧。
わずかの誤解もない、完璧な理解。
それが愛だと言うのなら、あなたのそれは本物ですね。
にこりと頬を持ち上げて、コクンと小さく頷いたら、ガバッと火宮がのし掛かってきた。
「翼」
んっ、あぁっ…。
すでに蕩けた蕾に指を差し込まれ、額に頬に唇に、首筋に胸に腹の上。身体のあらゆる場所に、火宮の口づけが降り注ぐ。
んンッ、はっ、ぁんっ…。
触れられた場所がジーンと熱くなり、チリチリと湧き立つ快感と、痺れるような愛おしさに涙が溢れる。
綺麗…。
ぼんやりと行灯の灯りに浮かぶ火宮は、しなやかな野生の獣のようで、本能と欲情に揺れた美貌がゾクリとするほど美しい。
身体も…。
見たい。ただその欲求に従った俺は、そっと手を伸ばして、火宮の浴衣の帯を解く。
「ククッ、積極的だな」
嬉しそうに笑った火宮が、協力してハラリと肩から浴衣を落としてくれる。
っ、やばい…。
その鍛えられた逞しい身体が綺麗で。
いくつもの修羅場をくぐった身体に残る、いくつかの傷跡も、ちっとも醜くない。
んっ、これ、前に撃たれたときのだ…。
心臓の斜め上、肩に近い位置にある引き攣れたような小さな跡は、この人を喪うかと思って恐怖に頬を濡らした、あの日のもの。
「んっ、翼ッ」
思わず唇を寄せて吸い付いたら、火宮の口から艶めかしい吐息が上がった。
俺を選んでくれてありがとう。
死の淵から、あなたは俺の元へ帰って来てくれた。
愛してくれてありがとう。
絶望の中から、あなたは俺を見つけてくれた。
大好きが溢れて、愛おしさでいっぱいになって。
出せない言葉の代わりに、そっと持ち上げた左手の薬指にキスをする。
「ククッ、おまえは」
優しい笑顔と、お返しと言わんばかりに、カツンとぶつけられた、火宮の指に嵌った同じデザインのリングが、指輪同士のキスみたいで。
好き。好き、愛してる。
足を絡めて、火宮の腰を引き寄せて。
性器を擦り付けて、挿れてとねだる。
「ッ、おまえは本当に」
たまらない、の言葉が終わる前に、ズプッとナカを穿った愛おしい熱に胸が震える。
滑らかで、綺麗な背中に爪痕を残して、くっ付いてくっ付いて、1つに溶けて混ざり合ってしまえばいいと、身体をピッタリと寄せる。
あぁっ、あっ、あんンッ…。
深く、浅く、激しく、優しく、内壁を擦る火宮の熱が、俺を高める。
ハッハッと上がる火宮の吐息が、火宮も高まっていることを教えてくれる。
あぁ、もう、本当、好き。
気持ちよくて、幸せで。
ポロリと涙が伝い落ちた瞬間。
掻き抱くように強く身体を抱き締められて。
「ッ、翼っ」
あっ、あぁぁぁっ!
ビュクッと俺が白濁を飛び散らせたのと、ナカいっぱいを満たした火宮が果てたのは、ほとんど同時だった。
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