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あぁ、腰が重い。
眠い。怠い。
朝から盛大な三拍子の揃った身体の不快感に、俺はリビングのソファーに埋もれてグズグズと不貞腐れていた。
「自分はすっきりした顔で出勤して行ってー」
今日は早出の大事な打ち合わせがあるとかで、すでに部屋にはいない火宮に向かって悪態をつく。
「あー、もう、俺は休んでやるっ。今日は絶対に学校なんて行くもんかっ」
昨夜、1日ぶりの我が家のベッドで、声が戻った祝いと、暴言の仕置きにと、かなりしつこく抱かれて、俺の身体はクタクタだ。
「せっかく戻った声も、喘ぎ枯れとか、笑えない」
わずかに掠れる感のある声の訳なんて、もう思い出したくもない。
はぁぁっ、と溜息を吐きながら、ソファに倒れていたら、ふと頭上に影がさした。
「っ?!」
驚いて上げた顔は、一瞬で引きつった。
「ま、なべ、さん?」
にこりと微笑んで、「おはようございます」なんて朗らかに挨拶している真鍋の、目だけがどうにも笑っていない。
「いつからそこに…」
「『もう、俺は休んでやるっ。今日は絶対に学校なんて行くもんかっ』からですかね」
「っーー!」
それ、1番聞かれちゃダメなやつ!
ダラダラと冷や汗をかきながら、俺はそろりと身体を起こした。
「どうやら本日は、学校をおさぼりになられるようで」
にっこりと、口元はちゃんと弧を描いているのに、目だけが鋭い。
まったくどんな器用な表情筋だ。
「っ、いや、だって、こんなコンディションで登校したら、むしろ居眠りとかぼんやりとかで先生に怒られる…」
だったら病欠だってなんだっていい。
適当な理由をつけて、休ませてくれた方が、火宮の名前が傷つかないよ?
屁理屈なのは分かっているけど、希望的観測を込めて見上げた、鬼様の反応は…。
「私に学校へ偽りの欠席連絡を入れろ、ということですか」
「っ…」
まぁそうなる、っていうか、連絡くらいなら自分で…。
「でしたらそれなりの代償はお覚悟の上ですね?」
「あ、う…」
まぁ、火宮にお仕置き宣言された時点で、今日は起き上がれないだろうって、少しは諦めもあったけど。
「おさぼりになられた分は、私がみっちりとしごかせていただきますので」
あー、それは罰も込みのってやつか…。
「はぁっ」
こんなの、火宮も同罪なのに。
俺だけ怒られるのとか、納得がいかない。
だけど、このダルい身体で登校しなくていいんなら、もうなんだっていいや。
「分かりました。じゃぁ学校に休むって連絡…」
「もう入れてあります」
「は?」
「声がお戻りなられた旨と、通院のためお休みすると、担任の先生にはお伝え致しました」
え。ちょっと待て。じゃぁさっきまでの会話は一体…。
「初めから休ませてくれるつもりだったんなら、いらなくないですかっ?!」
あんな脅しじみた会話。
「学校をお休みさせるというのは、会長のご指示ですので。ですが、ただサボらせるのは、今後に味を占められても困りますので」
この人は…。
だからしらっと脅しも厭わないって?
さすが、火宮以上のどS様だ。
「っーー!だったら!そちらの会長さんにっ、翌日に差し支えるような無茶な抱き方をするなって、進言すべきですっ」
半分は火宮のせいでもあるんだからね。
「翼さんが暴言を吐かれて、会長から仕置きを受けなければいいだけの話です」
「っ…」
ああ言えばこう言う。
「あぁ、暴言と言えば。声のご復活、おめでとうございます」
「へ…?」
今ッ?!
この人がなんだか分からなくなってきた。
だけどとりあえず、俺は多分、全力で遊ばれている。
「っ、ありがとうございますっ!」
嫌味ったらしく、怒鳴るように礼を言えば、ふっ、と可笑しそうに鼻を鳴らされた。
「そうしましたら、本日はまず医者に行き、検査等を済ませていただきます。その後、ご帰宅なされましたら、次はマンツーマンで勉強ということで」
早く着替えて来なさい、って…。
「ほ、本気でやるんですか?」
「体調不良というのは、ただの抱かれ疲れでしょう?それは仮病です」
にっこりと、口だけ微笑む真鍋に、逆らう術を俺は持たなかった。
そうして結局、病院に引きずられていった俺は、検査の結果、声帯等もきちんと機能していて、声に関しては、やはりメンタルの問題で、もう心配ないだろうといわれた。
その後、昼食を済ませて、帰宅した俺がどうなったかって…。
定規片手に目を光らせる真鍋の傍らで、今日の日課表にある教科全部を、それぞれ50分ずつ。
みっちりたっぷり、スパルタ授業されたのは、言うまでもない。
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