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「リカっ!」
一直線にクラスの応援席に向かい、キョトンとしているリカの手を引く。
会場内で1番可愛いかと言われたら疑問だけど、リカの容姿は悪くない…と、思う。
まぁこんなの、主観だし。大多数から見て可愛ければオッケーだろう。
「ちょっ、つーちゃん?なにっ?」
「いいから走って。総合優勝狙うんでしょ?」
細身のリカなら、小柄な俺でも十分に抱き上げられるはず。
わけがわからない顔をしているリカをぐいぐいと引っ張って、ゴールを目指す。
「つーちゃん、お題、なんなの」
ハッ、ハッ、と走りながら、リカが俺の手の中身を覗こうとする。
「この中で、1番可愛い人。ゴール前でお姫様抱っこするから!」
「はぁっ?それ、私で大丈夫っ?!」
「だってリカ可愛いし!」
「いやーん、嬉しい。っ、じゃなくてカレシさん!」
紙見せて、と俺の手から指示書を引ったくり、リカがそれを広げて眺めている。
「ほぅら、これは、つーちゃんがカレシさんに抱っこされてゴールの方が…」
「やだよっ!それ、自分の恋人が1番格好いいとか言ってることになる!痛いよ!」
そんなの恥ずかしすぎて選べない。
「はぁっ?だってあの人、誰がどう見ても格好いいから!痛くないって、全然」
「だからって、男の俺が、男にお姫様抱っこされてとか…」
関係を推測するには十分だし、そうなれば俺はまるで恋人自慢するみたいになるじゃないか。
「自慢しちゃえばいいのにー。つーちゃんは偏見とか気にしないでしょ?」
「まぁ男の恋人ってことで何を言われてもいいけどっ、その恋人を、1番格好いい人で連れて行って、しかも人前でお姫様抱っこされるのは、やっぱり無理!」
どうしたって恥ずかしい。照れ臭い。
「だーかーら、あれだけの極上男を捕まえて。ばちが当たるぞー」
「極上って…」
「あーあ、見たかったなぁ、つーちゃんを華麗に抱き上げてゴールしちゃう王子様」
どっちかっていうと王様じゃ…じゃなくって。
リカが悪戯っぽく笑ったところで、すでにゴール前。
「もう馬鹿言ってないで。とりあえず抱っこ!」
何よりゴールが先決だと、リカを抱き上げてゴールテープに突っ込む。
「ふふ、恋人を差し置いて、これ。つーちゃん、カレシさん、怒るぞー」
「っ…」
いやでも、俺は、多分出題者の意図に従ったまでで。
「カレシさんの前で、他の女を選んで、その女を抱いてゴール。うわー、やっちゃってるよね」
私、恨まれそう、と笑っているリカに、ギクリとする。
「それは…」
「私なら絶対に妬く」
それはだから、火宮が女だったらの話で…。
「恋人が、自分以外の人間を、可愛い、って褒めたも同然」
「あー…」
「絶対に面白くない」
言われてみれば、確かに俺が選択したのはそういうことになるけれど…。
『1着は、2年!紅組!会場で1番可愛い人を、お姫様抱っこでゴール、です。クリアです!』
キーンと響き渡った放送席の声に、ワッと盛り上がった会場の空気。
「っ…これはやっぱり、俺、やらかした?」
あはは、と乾いた笑いを漏らしてしまいながら、ゆっくりとリカを下ろして、そーっと、そぉーっと振り向いた、観覧者エリアの火宮は…。
「ひっ!」
「まっ、1位、ヤッタネ!」
隣でハイタッチを求めてくるリカの声に、とてもじゃないが答えられる気がしないほど。
片頬だけを器用に持ち上げた、冷たい鋭い火宮の視線に、俺は凍りついていた。
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