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「っぁ、今後とも、よろしくお願いします」
言葉と共に下げた頭が、小さく震えた。
ここでキレたら、火宮に多大なる迷惑をかける。それくらい考えつくくらいの思考力は、俺にもあった。
「っ…」
ぐ、と文句を堪えて唇を噛み締めたとき。
ふとそれまでどこに控えていたのか。真鍋がスッと近づいてきて、何やら一言二言、火宮に耳打ちをした。
「オヤジか」
火宮が呟くのと同時に、ざわっと会場の空気がどよめいた。
「くっ、組長っ!」
「七重組長だ」
「オヤジさん…」
ざわざわと騒めく人の間を抜け、七重が真っ直ぐに上座の俺たちの方へやってきた。
ふっ、と小さく吐息を落とした火宮が立ち上がる。
つられて椅子から立ち上がり、俺も火宮の隣に並ぶ。
段から下りた火宮と俺を待って、七重がゆったりと目を細めた。
「今日はお招きありがとうな」
「わざわざご足労いただき、ありがとうございます」
いつもは尊大で不遜な火宮様が、この人相手にだけは丁寧に接して見せるんだよね。
「おい、翼」
「はい?あっ、いや、はいっ、あのっ、七重さんっ、今日は来て下さってありがとうございますっ」
ヤバイ。火宮を眺めている場合じゃなくて。
慌ててガバッと頭を下げた俺に、くすっと七重の笑い声が聞こえた。
途端にザワザワと、会場内のどよめきが高まる。
「っ、俺…」
ヤバイ、何かやらかした?
ぼんやりしてしまった自覚のある俺は、焦って火宮を見上げる。
「ふははっ、翼くん、よく似合っておる。火宮とお揃いか」
好々爺然と目を細めた七重が、スッと俺の左手に視線を向けた。
「っぁ、はい。火宮さんから、贈っていただいて」
「ふふ、改めて、おめでとう。火宮も。しっかり甲斐性を見せているじゃないか」
一目でフルオーダーの高級リングだと見て取ったらしい七重が笑う。
火宮もニヤリと得意げな笑みを浮かべた。
会場内の騒めきが、もう騒動と言った方がいいくらいの大きさになる。
「あー?」
なんだろう、この空気。
なんだか俺のヘマを噂するというよりは、驚き慌てて困惑しているような…。
「クックックッ、おまえの肝の据わり方は、本当に頼もしいな」
「えっ?」
「ふはは、多少のことでは動じない、組長どもの腰を抜かしておきながら、このケロッとした態度。さすがは火宮のツレだ」
えーと?
七重の言葉に周りを見れば、みんながみんな、俺を畏れ多そうに、畏敬の混ざった目で見つめていた。
「え?」
なにこれ。
意味のわからない視線に首が傾く。
くいっ、と火宮の腕を引いた俺は。
「ククッ、おまえは俺の唯一最愛のイロだ」
「ついでに俺も可愛がっている、俺の贔屓の人間だ」
「あの…?」
ニヤリと笑った火宮に優しく見つめられ、七重にはくしゃりと頭を撫でられる。
「っ、あの七重組長が!」
「オヤジの後ろ盾もあるのか。ますます大事にしなくてはっ」
「火宮会長、七重組長の後見とは、あの少年に今後1ミリたりとも失礼があっちゃいけない」
ざわざわざわっ、と波紋を広げた騒めきの意味は、俺にはよく分からなかった。
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