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「ふはは。ところで翼くん、入籍祝いの品は何がいい」
「え?」
入籍祝いの品って…?
「なんでも好きなものを言うといい。家か?車か。ビルでも土地でもなんでもいいぞ」
「はいぃ?いや、あの…」
コノヒトハナニヲイッテイルノダロウ。
相変わらずの金銭感覚のズレっぷりに、思わず思考回路も止まる。
「ククッ、自家用ジェットとか、宇宙旅行の手配とか、吹っかけてやれ」
「はぁっ?そんなの、もらっても困りますし、そもそも俺は何もいらな…」
さらにぶっ飛んだ発言、もうやめて。
「遠慮するな」
「そうだぞ。なんだ、俺には祝わせてくれないというのか?」
あー、もう、だから、2人がかりで…。
「遠慮とかじゃありませんし、お祝いなら気持ちだけで十分です」
「その気持ちを形にしたいんだ。なんなりとねだってくれ」
1度出した発言を、七重はどうやら引っ込める気がないらしい。
「うぅ…」
「なんでもいいんだ」
「う、本当に、なんでもいいんですか?」
「あぁ。なんでも言ってくれ」
もうこうなったら、何か要求しない限り、解放されそうにない。
渋々、本当に渋々、無理矢理欲しいものを考えた俺は。
「じゃぁ火宮さんの昔の写真とか。七重さんと会った頃の…。あっ、成人式とか?」
1度見てみたかったんだよね。
七重なら、持っているか、入手できるだろうと思って口にした俺なのに。
「却下」
「はぁぁぁっ?」
隣の人が、取り付く島もなく切り捨てて下さった。
「なんだ、そんなもの、お安い御用だ」
「オヤジ」
「ははっ、別にいいだろうが、過去の写真の1枚や2枚」
「………」
ジロッと鋭い視線を七重に向ける火宮は、よっぽど俺に見せたくないらしく。
「まぁ火宮が成人式など出るわけがないが、内々の成人祝いのときの写真ならあるぞ」
「わぁ、じゃぁそれ…」
「だから却下だ。面倒くさい、もう小切手にしておけ」
ふん、と鼻を鳴らす火宮は、あまりに味も素っ気もない現金だなんて言い出して。
「えー、せっかく七重さんがなんでもくれるって言うのに。それに隠されると、余計に見たくなるんですけど」
「人の心理とはそういうものだな」
「ですよねっ。じゃぁ…」
ワクワクと七重に食いついた瞬間。
隣から、妖しく怖いオーラが漂ってきた。
「翼」
「っひ…」
「今夜、覚えておけよ?」
チラリと向けられる流し目が、それはそれは壮絶で。
「っーー!やだっ。七重さんっ、やっぱりお祝いは別のものにしますっ」
「チッ、つまらんな。じゃぁ翼くん、火宮の秘蔵写真は、また火宮に内緒でこっそりと…」
「聞こえていますよ、オヤジ」
ヒソヒソと、後半は声のトーンを落として言ってくれた七重だけど、俺の隣にピッタリと立っている火宮には無駄もいいところで。
「まったく、オヤジと翼がつるむとろくでもない」
「ふん。何をそこまで嫌がるんだか。それともそれは、翼くんが自分より俺に懐くのが面白くないおまえの嫉妬か?」
「オヤジっ!」
ガウッ、と噛み付いた火宮の怒声に、俺は俺で冷や汗タラタラだった。
「な、七重さん?」
お願いだから、もうその辺にしておいて。
あまり火宮を挑発しすぎると、絶対に夜、俺が大変なことになる。
「ふはは、でもいいことが分かったぞ。翼くんは、金より物より食い物より、火宮の秘蔵ネタで釣れる」
「っ…」
「今度から、翼くんを誘い出したいときはぜひそれを利用しよう」
ニヤッと悪い笑みを浮かべる七重は、やっぱりヤクザの親分さんで。
「翼。もしもうっかりそんなものに惑わされようものなら…分かっているよな?」
ニヤリ、と壮絶に妖しい笑みを浮かべる火宮も、やっぱりヤクザのトップ様で。
「っーー!大丈夫ですっ、ついて行ったりしませんっ」
ごめんなさい、七重さん。
だけどやっぱり俺が1番怖いのは、火宮のお仕置きだから。
「まったく、この嫉妬しいの、心の狭い男で、本当にいいのか?翼くん」
「嫉妬も愛ですよ」
「夜も泣かせるんだろう」
「仕置きも愛ですよ」
こ、の、バカ火宮ぁぁぁっ。
シラッとぶっ壊れた台詞を吐きまくる火宮に、さすがに七重も呆れている。
「まぁ当人同士がいいならいいが。では祝いの品は、こちらで勝手に考えて贈らせてもらう」
「ククッ、ありがとうございます。あぁ、参考までに、翼が好きなのは、催淫効果のあるローションと、ローターとバイブと…」
「誰が夜のお供を贈ると言った、誰が」
あぁぁ、もうこの人、誰がどうにかして。
「バカ火宮っ!」
さすがにブチッとキレた俺は、火宮の腕を振り払って、ズンズンと、みんながいるフロアの中へ…料理の並んだテーブルがある方へと歩いて行った。
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