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途端にざわざわと空気が揺れる。
聞こえてくるのは、「翼さん」「翼さんだ」と呟く、会場内の人たちの声で。
まるで珍獣にでもなった気分だ。
「もう、ヤケ食いしてやるんだから」
ガツっとビュッフェ台から取り皿を持ち、遠巻きにジロジロと向けられる視線の中を、ズカズカと歩いてやる。
まるで見えないバリアーがあるみたいに、俺が進むとその分だけ人が後退り、俺の周りだけ綺麗にまぁるく空間が空いている。
あぁ、これが火宮の傍らに立つということか。
これまでも、事務所内でそれなりに遠巻きにされてはいたけれど、その比じゃない。
「俺が偉くなったわけじゃないんだけどなぁ」
そんなに俺に対して構えたり、緊張してくれなくていいと思うんだけど。
ぐるりと周囲を見回した俺は、いつの間にか、いきなり間近に立っていた真鍋に気づいて、ビクッと身を竦めた。
「わっ、真鍋さんっ」
「はぁっ、まったくあなたは」
「なっ、いきなりっ、側にいないで下さいよっ」
びっくりしたなぁ、もう。
ドキドキと激しく波打つ心臓をなだめながら、ジトッと真鍋を睨む。
思わずお皿を落としてしまわなくてよかった。
「驚かせてしまい申し訳ありません。ですが、主役のあなたが上座から離れ、勝手にうろつかないで下さい」
「っ、だって…」
「お料理をお食べになりたいのでしたら、そう仰っていただけば、お席までお運びいたしますので」
それはそれは見事な無表情なのだけど、口調だけが完全に呆れている。
「そんなの、悪いし、それに好きなものを見て選びたいし…って、そもそも食べようと思ってこっちへ来たわけじゃなくて…」
元々は、火宮が意地悪ばっかり言うから逃げてきたんだ。
「はぁっ、まったくあなた方は」
「あっ、もしかして真鍋さん、火宮さんに言われて俺を連れ戻しに来たんですか?」
バカ火宮。
ベーッ、と盛大に舌を出して、目の下も伸ばして、火宮に向けてやる。
苦笑しながら、コイコイと手招きしている火宮が見えたけれど、そんなの無視だ。
「戻りませんからねー。あっ、浜崎さんっ」
ツン、と背けた顔が、壁際で1人ポツンと立っていた浜崎を見つけた。
「ちょっ、翼さんっ…」
真鍋が引き留めようとしたのを無視して、俺は、ササッと両側に割れていく人の間を歩いて、浜崎の前へと向かった。
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