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「浜崎さん」
「え?は?つ、翼さんっ、な、な、な…」
声をかければ、浜崎は、ワタワタと慌てて、周りをキョロキョロ見回す。
「お久しぶりです。この前はごめんなさい。謹慎、解けたんですね」
「いやっ、あれは、おれが悪いんでっ。その、はい、なんとか」
ひぇぇ、という声が聞こえてきそうなほど、浜崎がテンパっているのに笑ってしまいそうだ。
「そんなきょどらないで下さい。でもよかった。じゃぁまた護衛も…」
「あー、それは、まだ当分…」
「え。外されたままなんですか?」
俺としては、やっぱり慣れた浜崎がいいのに。
「はい。当分は緊張状態っすから。失態をおかしたおれが、付かせてもらうわけにはいかないっす」
すみません、と頭を下げる浜崎の周りに、ふと数人の男たちが歩いてきた。
「おぅおぅ、浜崎。いいのかー?こんなところで翼さんを独り占めして」
「え?」
「会長がさっきから、見てないようで、ずっとこっちを見てるぞ」
ツンツンと、浜崎を肘でつつくこの人たちは、蒼羽会の構成員さんか。
「う。それは…」
「まぁでもおまえは翼さん付きだったからいいのかー」
会長も見てるだけだし、と揶揄うように言う男たちが、チラッと俺を見た。
「え?」
「なぁ浜崎、俺らも紹介してくれよ」
こそっと浜崎に耳打ちする声は、俺にもしっかり聞こえていた。
「この機会に、俺らも翼さんに覚えてもらいたいっていうか。ぜひお見知りおきいただきたいなーって」
ニッと笑う男の名前を、俺は確かに知らない。
「えっと…」
「松原です。よろしくお願いします」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「あっ、松原さんっ、抜け駆けズルイですよ!」
松原と名乗った男に続いて、俺も、俺も、と、男たちが我先にと名乗ってくる。
「なんか、いきなり人気者になったみたいです」
アイドルみたい、と笑ってしまいながら浜崎に呟いたら、浜崎が困ったように苦笑した。
「なんかすみません」
「えっ?なんで浜崎さんが謝るんです」
「あ、いや、代表してっていうか。みんな、翼さんに取り入りたくて必死っすから」
「え?」
なんだそれ。
コテンと首が傾く。
「翼さんに覚えてもらって、気に入ってもらえたら、会長に口利きしてもらえるチャンスがあるかな?とか、やっぱり期待するんすよ。みんな、会長に取り立ててもらいたくて必死っすから」
「っ、下心…?」
浜崎の説明に、じく、と胸の奥が疼いた。
「あーっ、浜崎。だからおまえはまたそうやって」
俺を独り占めしている、と小突かれている浜崎に、複雑な気分になる。
「俺には火宮さんの人事に関して、なんの権限もないんだけどなぁ」
確かに浜崎は1度、お願いして側においてもらった経緯はあるけれど。
毎回そのお願いが通るとは限らないし、最終的に決定するのは火宮の独断だ。
しかもその『お願い』には、かなり大きな見返りの支払いがある。
「俺に媚びても、本当、何の得もないですよ」
あはは、と笑う俺にも、構成員さんたちは、必死で自己アピールしていた。
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