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※薬物投与、摂取の描写があります。
ご不快に思われる方は、閲覧にご注意下さい。
あぁ、なんだろう。
ふわふわして、とても気持ちがいい。
「…ばさ。…ばさっ!」
「えへへ」
ポカポカ暖かくて、身体がとても軽い。
「しあわせー」
「翼っ!」
「ふぁ?」
ドンッ、と体当たりしてきたこの衝撃は何。
「しっかりしろっ、翼ッ!」
「ふふふ」
可笑しいの。
「翼ぁっ!」
なんだろ。誰かが叫んでる?
そういえばここ、どこだっけ。
「くそっ、翼ッ」
「あ…」
あ。
「藍、く、ん…」
思い出した。
俺は本城に拉致られて、クスリを吸わされて。
「翼っ!」
「藍、くん…」
なんとか焦点が合った目に、ぼやぁっと豊峰の顔が見えた。
「はぁっ、よかった。おまえ、完全にラリっちまったかと」
「あ、あ、俺」
数秒前の記憶はあまりに曖昧で、今も本当は、その不確かな世界にいつ呑み込まれるとも分からない、とても不安定な感覚の中にいる。
「あ、いつ、は…?」
正気でいられるうちに、必死で豊峰と会話を繋がなくては。
「なんか、手配した撮影スタッフが、急なキャンセルをしてきたとかで。電話で怒鳴りながら、別の手配をするとかなんとか、部屋を出て行った」
「そか…」
ぐらり。
世界が歪む。
「翼!多分だけど、それってきっと、あの会長サンが気づいて動いてくれてるんだと思う」
「っあ。ひ、みやさ、が?」
「あぁ。多分、翼が学校から拉致られたこと、翼ンとこの面子はもう気づいてくれてる」
間違いない、と力強く響く豊峰の声に、なんだか泣きたくなった。
「助かる…かな」
「助かる!あの会長サンは、どんな手使っても、必ずおまえを救い出しに来てくれる!」
「んっ…」
「だから頑張れ!」
ぐるぐる巻きに縛られたまま、それでも力強く励ましてくれる豊峰が頼もしい。
「うん…。藍くんは?無事?何もされてない?」
「ッ、バカ翼っ!…てめ、人の心配なんか、してんなよっ…」
怒鳴る豊峰の声が湿る。
「無事?」
「あぁ!おまえのおかげで、俺はなんともないっ。何もされてねぇから…だから」
「よかったぁ」
ホッとして。
すごくすごくホッとして、身体からヘニャッと力が抜けた。
「っ、気持ち、わる…」
「翼っ?」
「あぁ、重い。頭が、身体が…」
「翼っ!」
突然訪れた、この途方も無い倦怠感はなんだろう。
「ごめ…藍くん。なんか、だる…」
「翼っ…」
ズブズブと、このまま床に沈んでいくんじゃないだろうか、と思うほど、身体が重くて怠くて。
とりあえず、目を閉じようとした、そのとき。バタン、と部屋のドアが開く音が、耳に飛び込んできた。
「何を騒いでいる」
「アンタ!」
「あぁ、なんだ。もう効き目が切れてきたのか。早かったな」
ニャァッ、と笑う本城が、ゆっくりと側まで歩いてきた。
「ほら、やるよ」
カタン、とテーブルから、錠剤を取り上げた本城が、ニタニタと笑う。
「これを飲めばラクになるぞ」
「駄目だ、翼っ!飲んだらダメだッ」
目の前に揺れる錠剤と、必死で叫ぶ豊峰の歪んだ顔が交互に視界に入る。
「ふははっ、抵抗するか?あぁ、すればいい」
「っ…」
「あいつもきっとそうだった。抗って、抗って、それでもあいつは堕とされた」
パキリ、と握り潰された、錠剤の音が響く。
「抵抗しても、敵わない。その絶望はどれほどだ?抗っても抗っても堕ちていく、その無力感と絶望に、打ちひしがれて狂っていくといい」
床に転がった身体を、ドカッと蹴られて仰向けにされる。
ぐぃっ、と無理矢理口に押し込まれたのは、新しく取り上げられた錠剤で。
「んぐ…」
必死で歯を食いしばっても、強引にこじ開けられた口内に、ポトリと薬は落ちていき、蓋を開けたペットボトルの口を押し込まれれば、流れ込んでくる水の苦しさにそれを飲み込むしかなくて。
「うっ、ごほっ…はっ、うぐっ…ん」
ゴクン、と上下してしまった喉に、苦い絶望が広がった。
「あ、あぁ…」
「クソッ、翼ぁぁぁっ!」
「ふはは。きみは堕ちるところまで堕ちていく。火宮刃が、こちらの動きに気がついた」
え…?
「手配した撮影隊は、多分捕まったよ。今頃拷問で、この場所を吐かされている頃だろう。きみたちのGPSを潰しておいてよかった。だけど多分、もう時間はほとんどない」
「会長サンがっ?やっぱり!」
な、に?
ぼんやりと霞んできた頭では、本城の言葉を上手く理解出来ない。
「撮影はもうナシだ。移動する時間もきっと残されていない。だったらせめて、火宮刃が乗り込んでくるまでの間に、きみを完全に狂わせてやる」
「っ…」
「ありとあらゆる玩具で犯しつくし、善がり狂って壊れるまで責め抜いてやる」
バラバラと床にぶちまけられた、大人の玩具たちが目に入る。
「あぁ、これも、もういらないな。ボロボロのただの人形になったきみには、愛する人などもう必要ない。クスリとセックスだけがきみの世界の全てになる」
な、にを、言って…。
ふわっ、と心地いい暖かさに包まれて、思考が靄の向こうに霞んでいく。
「正気を失って、きみはトモダチのことも、そして、最愛の人のことも分からなくなる」
スルリと触れた本城の指が、俺の両手の拘束を解き、俺の薬指から、何より大事な宝物を奪っていく。
「イッツ、ショータイム。壊れたきみを見て、火宮刃はどんな顔をしてくれるだろう。どんな絶望を見せてくれるだろう」
楽しみだ、と高笑いする本城は、狂っていた。
カラーンと音を立てて床に転がったリングに伸ばした手が、それに届くことなくパタリと落ちた。
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