アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
394
-
※薬物に関する描写があります。
ご不快に思われる方は閲覧にご注意下さい。
あぁ、気持ちいい。
さっきまでの倦怠感が嘘みたいに身体が軽い。
今ならなんでもできそうだ。
「…ばさっ。つばさっ!」
「ふふ」
後から後から力が湧いてくるような気がして、まるで無敵のスーパーマンにでもなった気分だ。
「はぁんっ、熱ぅい」
身体の中から熱が湧き上がり、カッカと火照る身体を持て余す。
「あふっ…」
暑いから、脱いじゃえ。
プチプチとワイシャツのボタンを外し、バサリと肩からシャツを外したら、豊峰がジタバタと床でうねっていた。
「翼ッ!」
「あははー、藍くん面白いー」
何それ。新しい遊び?
クネクネ飛び跳ねて、本当、芋虫みたい。
「翼っ…」
「んっ、はっ…」
あぁ、ヤリたいな。
全身が性感帯になったみたいに、空気が触れてもゾクゾクする。
「じんー」
刃、どこ?
ふらりと彷徨わせた目に、ふわふわと優しく笑う火宮が見えた。
「っ!」
ち、がう…。
「翼っ?!」
「違う。火宮さんは、そんな顔して笑わない」
俺の知ってる火宮刃は。
そんな完璧な優しい笑顔を浮かべない。
火宮が思わず見せる優しい笑顔は、もっと下手くそで、だけど心がとっても伝わって、思わず泣けそうなほど幸せな笑顔なんだ。
「偽モノっ…」
幻覚だ。俺は間違えない。
俺だけはあなたを、どんな偽ものとでも区別できる。
「っ…」
俺は呑まれない。
本城が言うように、狂気に呑まれたりなんかしない。
ギッと睨みつけた優しい笑顔の火宮が、ふわっとぼやけて本城に変わり、ニタニタと下卑た笑みを浮かべる顔がそこにあった。
「チッ。くそみたいな精神力だな。きみの支えは火宮刃か。面白いほどに強烈だ」
「お、れは、あなたの思い通りになんか、ならなっ…」
「ふははっ、あっぱれだ」
ニタァッと笑う本城が、さらに新たな錠剤を取り上げ、パキッと包装から取り出した。
「これでもまだ、強がれるか?追加だ。きみはどこまで耐えきれる」
コトン、とペットボトルの水も取り上げ、ゆっくりと俺の目の前に本城が跪く。
あぁ、まただ。
昏い覚悟が頭の片隅を過ぎった瞬間。
「クソがぁっ!ヤメロッ!もういい加減にしやがれっ」
いつの間に起き上がったのか、豊峰がぐるぐるに縛られた姿のまま、本城に体当たりを食らわせていた。
「チッ…貴様」
「藍くんっ!」
パラパラと錠剤が床に散らばり、ゴロゴロとペットボトルが転がっていく。
本城がすぐさま体勢を整え、手足も身体も不自由な豊峰は、そのままドタッと転がって、ジタバタと床でもがいていた。
「藍くんやめてっ…」
今の状態では敵わないよね!
分かっていたからこれまでも大人しくしていたんでしょう?
「クソッタレが。火宮翼に免じて貴様は見逃しておいてやったものを」
カチリと本城がいきなり取り出したのは、鈍く光りを弾くバタフライナイフ?
「藍くんっ!」
だから駄目だって。
どうして突然、そんなキレた真似…。
「ハッ、刺すか?アンタはなぁっ、どこまでも矛盾してんだよっ!」
ギラリ、とナイフの刃が高く掲げられる。
「貴様…」
「火宮会長サンに憎しみを向けながらっ、アンタは翼に、アンタの親友が1番されたくなかったはずのことをしてるっ!」
「黙れ貴様ッ。殺すぞ」
ゆらっ、と揺れたナイフを見つめ、豊峰はどこまでも皮肉な顔をして笑った。
「マトリ、だろう?」
「ッ…」
「アンタの親友サン、マトリだったんだろう?ならさぁ、クスリ。クスリを使う犯罪を、1番憎んでいたんじゃねぇのかよ」
「うるさいっ!」
ドカッ、と激しく豊峰が蹴られ、俺は思わず身を竦めた。
「ぐっ…。あはは、自覚あんの?そうだよな?マトリの仕事は、薬物の流通を防ぐこと。撲滅すること。それをなんだ?アンタはそいつがヤクで狂わされたと知って、結局アンタも、その親友サンを狂わせたやつらと同じように、ジャンキー1人増やそうとしているだけじゃねぇか」
「黙れ、黙れ、黙れ」
「黙んねぇ。だってアンタ、矛盾しすぎ。ヤクを扱う組織さえなければ?うっかりマトリの正体を見破った会長サンがいなければ?あっはは!冗談」
「ッ…」
「その前に、アンタみてぇな、トチ狂った感情で、クスリに手を出すような人間がいなけりゃ、そもそもヤクなんて流通しねぇんだよっ!商売にならねぇんだよ。翼を狂わそうとしているそのクスリ、アンタどこで手に入れたよ?」
「くっ、それは…」
「火宮会長サンを、アンタの親友サンの仇と言いながら、アンタが1番親友サンを裏切ってんだよっ!仇討ちすんなら、まず自分を刺しやがれ、くそったれがぁぁっ!」
豊峰が、床に転がったまま全力の叫びを迸らせた瞬間。本城の高く上がったナイフが、ギラリと光を弾いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
395 / 781