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あぁ、暑い。
喉が渇いて死にそうだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
行けども行けども砂地が広がる、広大な砂漠の中。俺はどうして、こんなところを歩いているんだっけ?
「はっぁ、水ぅ…」
ぐしゃりと握りしめた胸元は苦しく、ふらりと伸ばした手の先には、求めるものは見つからなかった。
ジリジリと照りつける太陽が熱くて、今にも干からびてしまいそうだ。
ーー…ばさ。…ばさっ!
「っ…?」
不意に、砂ばかりに囲まれた景色の中に、ゆらりと揺れる人影が2つ、ぼんやりと佇んでいるのが見えた。
「父さん?母さん!」
ふわりと優しく微笑んで、おいでおいでと手招きしているのは、俺の両親で。
「父さん!母さん!」
砂地に足を取られそうになりながらも、俺は転がる勢いで砂漠を駆け出した。
「父さん、母さん」
必死で駆け寄り、2人に向かって手を伸ばす。
にこりと微笑んだ2人の姿が、不意にサラサラと崩壊した。
「え…?」
後1歩で掴めるはずの距離。
それでも俺の手は2人に届かず、俺の目の前で、2人の姿が溶けていく。
砂のようにサラサラと、風に流されて消えていく。
「父さん?母さんっ」
慌てて伸ばした俺の手は、スカッと何も掴めずに、ただ虚しく宙を切った。
「っ…」
な、んで…?
ぼつりと1人。再び砂だらけの世界の中に、俺1人になる。
行く先も、戻る場所もわからずに、ぼんやりと立ち尽くした目の端に、キラリと光る何かを捉えた。
「な、に?」
光の発信源に視線を移し、目を凝らしてその場を見つめる。
サラサラと風が吹き、砂が流れて露わになったそこには、砂地に半分ほど埋まった指輪が見えた。
「っあ!」
ペアリング。
それが何かに気づいた瞬間、俺は慌てて飛びついていた。
「っ!」
跪いて、周囲の砂ごと掬い上げる。
サラサラと、指の間から砂を落とした手のひらに、何故かリングは残らなかった。
「え…?」
慌ててその場の砂の中を探る。
けれども触れるのはサラサラの砂ばかりで、金属のような固い感触はどこにもない。
「なんで?なんで?指輪。指輪はどこ?」
ひたすらに、砂をかき混ぜ這い回る。
その俺の目の前に、ふと、高級そうな革靴の足元が現れた。
「っ?!」
ーー…ばさ。つばさ。
「ひ、みや、さん?」
にこりと微笑む火宮が、俺を見下ろして立っている。
ーーつばさ。
あぁよかった。指輪、あなたが拾ってくれたんですね。
火宮の手の中に見える指輪に、ホッと力が抜けた。
ーーつばさ。
『捨てたんだな』
「え?」
『これは捨てられて転がっていた』
「っ、違っ…」
ぎゅっ、と指輪を握った火宮が昏く笑った。
『おまえはこれを、外して捨てた』
「違うっ、それはっ…。それはあの人が」
必死で伸ばした俺の手を、火宮はひょいと避けてしまった。
『いらなくなったから、おまえはこれを外して捨てたんだ』
「違う!違う、本当にそれは」
翼。
翼ーー。
薄く、昏く、微笑みながら、火宮がゆっくりと遠ざかっていく。
必死で火宮にしがみつこうとした手は、スカッと虚しく、再び宙を掻いた。
「違うからっ。お願い、火宮さんっ。行かないでっ!」
誤解だ。違う。俺は自分で指輪を外してなんかない。
嫌だったのに。無理矢理勝手に外されて…。
「火宮さんっ。火宮さんっ、嫌だっ」
行かないで。
昏い笑顔を宿したまま、火宮の姿が消えていく。
サラサラと、両親たちと同じように、砂に溶けて崩れていく。
「いやぁぁぁっ!火宮さんっ、行かないでっ!」
「つばさ。翼っ!」
失う恐怖と、深い悲しみ、絶望と苦しみが混ざったぐちゃぐちゃの感情が爆発した瞬間。
「翼!」
「っ、あ?…ひ、みや、さん?」
ぎゅぅ、と痛いほどに掴まれた手がピリピリと痺れて、ふと気づいた視界の中に、苦しそうに眉を寄せた美貌が映った。
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