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その2日後。
薬が完全に抜けた俺は、退院した。
真鍋が同乗する車で、火宮と共にマンションへ帰る。
スーッとスマートにマンション前に横付けされた車から、俺は何日かぶりにここへ降り立った。
「ふぁぁっ、帰ってきたー」
エントランス前で大きく伸びをしたら、火宮にポン、と頭を撫でられた。
「お帰り」
ふっ、と笑う火宮の目が柔らかい。
えへへ、となんだか幸せな気分になりながら、ゆっくりとエントランスに足を踏み入れた、その時。
「翼っ」
「え?藍くん…?」
エレベーターホールからタタッと、豊峰が駆け寄ってきた。
「っと、会長、お疲れ様です」
俺に駆け寄ろうとしてからハッとして、ペコリと深く頭を下げる豊峰の意味がわからない。
「あぁ」なんて慣れた様子で応じている火宮はもっと謎だった。
「あの…?」
俺1人、状況が掴めないで戸惑ったところに、スッと真鍋が寄ってきた。
「豊峰の若には、あの日より、蒼羽会預かりという形で、こちらで暮らしていただいております」
「え…?それってどういう」
「形式上はうちへの修行を兼ねた出向ということで。浜崎たち下のものと共に、生活していただいています」
それはつまり、弟子入りみたいなものなのか。
いまいちよく分からずに、ふらりと火宮を見上げたら、薄く目を細めた火宮がニヤリと笑った。
「形の上では、な」
「え?」
「そうでもしないと、一組長の大事な子息を、家からおいそれと引き離せない」
「っ…それは」
「おまえなら…あの時おまえに意識があったならきっと、おまえは豊峰を、あの親父の元には帰さないと言っただろう?…そう思ってな」
ハズレか?と笑う火宮に、俺はブンブンと首を振った。
「ククッ、だから、うち預かりという形で、こいつは今、うちで暮らさせている」
「っ、火宮さん」
「気が済むまで、ゆっくり考え、迷えばいい。こちらは、おまえらがおまえらの答えを出せるまで、いくらでも居場所は提供してやる。好きなだけ悩めばいいさ」
ガキども、と笑う火宮だけれど、それはとても大きな度量がなせる技で。
「ありがとうございます、会長。だから、翼、俺今、おまえん家の下に住ませてもらってんだ」
にかっ、と笑う豊峰は、見た目には屈託がなさそうで。
「そっか」
「一応形では、蒼羽会の一員みたいな形だからさ、本当はおまえにも敬語とか使わないとならないんだろうけど」
「え!やめてよ!」
「会長さんの好意で、それはいいことにしてもらってる」
へへっ、と笑う豊峰は、いつの間にか火宮たちにも大分馴染んでいるみたいだ。
「おまえはうち預かりの構成員と同時に、翼の友人だからな」
「本当に、ありがとうございます。お世話になっています」
スッと頭を下げる豊峰は、なんだかやけに大人びて見えた。
「クッ、そういうことだ。分かったら行くぞ」
「えっ、ちょっ、まだ俺、藍くんと話したいこといっぱいあるんですけど…」
「後にしろ。すぐ下にいるんだから、いつでも話せる」
ぐいっと腰を抱かれ、さっさとエレベーターの方へ引き摺られて行ってしまう。
「後って、だってまだお礼とか、あの後どうしたとか、俺は無事に元気になったとか…」
「すべて後だ。それに、見れば分かる」
「でもっ」
ズルズルとエレベーターホールに連れて行かれてしまう俺は、必死で後ろを振り返った。
「ふん。あまりうるさい口は、塞ぐぞ」
「っ!」
言われなくても、それが「口で」ということは分かって、俺は慌てて口を閉じた。
「クックックッ、なんだ、嫌なのか」
「っーー!藍くんの前でっ…」
なんてことを言うんだ。
カァッと顔を赤くしてしまいながら、俺は、苦笑して俺たちを見送っている豊峰から視線を戻して、指紋認証のエレベーターを操作している火宮を、ポカッと殴りつけた。
「痛いな」
「はぁっ?これくらい、痛いわけ…」
「恋人を殴りつけておいてその態度」
「ちょっ…」
ぐいっ、と捻り上げられた手に、嫌な予感しかしない。
「これは仕置きだな」
「っーー!」
ぐっと背中をエレベーターの扉に押し付けられ、もう片方の手で顎を掴まれる。
っ、嘘!藍くん見てるーっ!
身体を反転させられてしまったから、バッチリとエントランスの方に向いてしまった顔が、こちらをまだ見送っている豊峰と出会う。
「やっ、火宮さっ…」
いくら関係を知られていても、話に聞いているだけなのと、実際にキスシーンなんて見せてしまうのは別だ。
どうにか火宮から逃れたい一心で、俺が暴れた瞬間。
「うわぁっ!」
「クックックッ、ほら」
いきなり背中のドアが開き、俺は後ろに倒れるかという勢いで、ヨロヨロとエレベーターの中に入ってしまった。
そのままついてきた火宮がニヤリと笑い、今度はエレベーター内の壁に背中が押し付けられる。
「んっ…」
火宮の愉しげな唇が、俺のそれに覆い被さってきたその向こうで、扉がゆっくりと閉まっていく。
「ンッ、はっ…」
スッと最後の隙間が閉まる瞬間、ホールの向こうに、真鍋と、それに倣って頭を下げて俺たちを見送る、豊峰のつむじが見えた。
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