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「っーー!もう、バカ。バカ。バカ火宮っ」
エレベーターが最上階につく頃には、すっかり全身から力が抜け、腰も砕けた俺は、火宮にへにゃりと寄りかかって、文句を垂れていた。
「クックックッ、だから、そういう暴言の仕置きだと…。まったく懲りないな」
「っ、だって、絶対見られた。藍くん見てた」
頭を下げて見ない振りはしてくれていたけど、多分あの一瞬前には、バッチリ俺がキスされるところが見えていたはずだ。
「もう恥ずかしくて顔合わせられない」
むぅ、と口を尖らせた俺を、ククッと可笑しそうに火宮が見下ろしてくる。
「ほら」
フロアまでたどり着いたエレベーターの、開いた扉を片手で押さえて、火宮が下りろと促してくる。
「うー」
ただでさえ、火宮に寄りかかっていなければ立っていられないものを、歩けるわけがない。
「なんだ」
下りないのか?とニヤニヤしている火宮は、本当に意地悪だ。
「っ、抱っこ!」
ムカつくから、ツンとそっぽを向いて、つっけんどんに言い放ってやる。
「ん?」
「っーー!抱っこ!抱いて部屋まで運んで下さい!」
そもそも、火宮さんのせいなんだから。
それくらいの我儘聞いてよね。
怒鳴る勢いで叫んだら、クックッと喉を鳴らした火宮が、姫にかしずくナイトのような仕草でその場に片膝をつき、ニヤリと俺を見上げて笑った。
「仰せのままに、奥さん」
「っーー!俺は女じゃないっ!っていうか、お姫様抱っこしてなんて言ってないっ」
ひょい、と軽々身体を横抱きにされ、俺はカァッと頬を熱くする。
「ククッ、暴れると落とすぞ」
「っ、やだ」
明らかな脅し文句に、思わずピタリと抵抗をやめてしまったら、何故か火宮の動きも止まった。
「ふっ、軽くなってしまったな…」
不意にポツリと呟いた火宮が、切なく笑う。
「っ…だい、じょうぶ、ですよ!」
「翼?」
「俺はっ…まだ、成長期ですもんっ。もりもり食べて、すぐにっ…取り戻し…」
だから、そんな辛い顔しないで下さい。
「翼…」
「ねっ?俺なら、大丈夫ですから」
ぎゅぅ、と火宮の首に腕を回して、顔を埋めて必死で伝える。
震える唇をぐっと噛み締めたら、火宮がクックッと笑って身体を揺らした。
「そうだな。美味いものをたくさん食べて、体力も体重も元に戻してもらわないとな」
「火宮さん?」
「これじゃぁ抱き心地が悪くてたまらん。セックスの途中でへばられても面白くないしな」
「なっ…」
この人はもう!
「だからすぐそういう下ネタっ…」
まぁだけど、それが火宮さんなんだよね。
しんみり湿った空気なんて似合わない。
「クックッ、好きだろう?」
「好きじゃないっ。このエロおやじ…」
あ、やば。
久々につるんと口が綺麗に滑った。
「ほぉぉ?せっかく、あのクズに媚を売った件、不問に付してやろうと思っていたが」
「っ…」
「これはやはり1度じっくりと、躾直す必要がありそうだな」
ぎゃぁ!
がぶりと耳に噛み付かれ、腰にくる低い声で囁かれたから堪らない。
思わずブルリと身体が震えた。
「っーー!ごめんなさいっ」
「まぁそう遠慮するな」
あぁ言葉が通じない火宮様。
ニヤリ、と楽しげに笑った、いつも通りの…いや、いつも通り過ぎる火宮が、俺を抱いたままゆったりと玄関をくぐっていった。
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