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「ところで、翼。学校だがな」
「あー、かなり欠席しちゃってますよね」
拉致られた日から数えたら、何日になるんだろう。
「うわー、勉強、ついていけるかな」
少なくとも1週間は行けていない。
なかなかの進学校、授業の進度が早いんだよね。
「ククッ、おまえは、真っ先にそっちの心配か」
「え?だってもうすぐ期末テストですよ。どうせまた、上位じゃなければ、怒りますよね…」
あの鬼様が。
「ククッ、俺は特に、おまえが希望の進学先に行けるような成績をキープしていればいいと思うんだがな」
「でもアノヒトは、会長のお名前が!あなたの振る舞いがすべて会長への評価に!って、こう、ひゅぉーっ、て冷凍庫みたいな冷気を出して睨むでしょう?」
怖い、怖い、と、足をパタパタさせたら、プッ、と珍しく、火宮が吹いた。
「冷凍庫か」
「そうですよ。あれに晒されると、カチンコチンに凍ってしまうんですからね」
「真鍋は雪女か」
「あははっ、雪女!本当に」
これまたこんな会話を聞かれたら、それこそ冷たい冷たい冷気に晒されること間違いなしなんだけど。
幸いここに本人はいない。
「っ、いない、ですよね?」
不意に、俺にとっては神出鬼没のけがある幹部様のことを思い出し、恐る恐る後ろを振り返ってみた。
「はぁぁぁっ、いるわけありませんよね」
「ククッ、そうそういてたまるか」
小舅が、と笑う火宮にホッとする。
「よかった。だって真鍋さん、なーんかタイミングが…」
え。
言っている側から、いきなり火宮の胸ポケットで、ピリリとスマホが鳴り響いた。
「っ!」
取り出して画面を眺めた火宮が、ニヤリと笑ってそのディスプレイ表示を見せてくる。
「真鍋っ…」
「なんだ」
唖然となった俺の目の前で、火宮がニヤリとしたまま電話に出た。
「ククッ、あぁそうか。分かった、それでいい。…ん?いや別に。クックックッ、気になるなら今度翼にでも聞いてみろ」
ちょっ、ちょっ、ちょっ、火宮さんっ?
真鍋の声は聞こえないから、なんの会話をしているのかは分からない。だけど多分火宮の言葉は、火宮の声が笑っていることを問われたのだろうと想像がついて。
『う、裏切り者ーっ』
こっちで涙目になりながら、小声で囁いたら、それはそれは楽しそうな火宮の、唇の端がゆるりと吊り上がった。
この人は…。
『どS。意地悪。バカ火宮!』
ムゥッ、と唇を尖らせて、精一杯の悪態をついてやる。
後ろに玩具を入れられたままだから、つい小声になってしまうのは情け無いけど。
「クックックッ、そうことだ。あぁ。俺はその翼の仕置きがあるからな。切るぞ。あぁ、分かっている。あー、はいはい、うるさいな」
チラリ、とこちらを見ながら、最後は面倒くさそうに眉をひそめて、プツンと電話を切る。
「で、翼?」
「っひ…」
「まったく、おまえは。仕置き中だという自覚はあるのか?」
「っーー!だって火宮さんが!」
意地悪ばかり言うのが悪いのに。
「クッ、まぁいい。おまえの家庭教師だがな、また明日から再開するそうだ」
「はぃぃ?」
いきなりまた突然だな。
「休んでいた分の勉強、不安なんだろう?」
「それはそうですけど」
「あの小舅、先回りしてその提案だ。スケジュール調整が終わったから、明日から毎日付き合える、だとさ」
「え…」
これはいよいよ、本当にどこかに盗聴器でもあるんじゃ…。
あまりにタイムリーな話題すぎてゾッとする。
「ククッ、できる男だろう?惚れるなよ」
「いや、出来すぎて怖いですから」
惚れるどころか、恐れ慄く。
「ふっ、まぁ連絡はそれだけではなくて、浜崎のこともだ」
「浜崎さん?」
「あぁ。おまえはいきなり勉強の心配をしたが、俺は、校内で拉致などという目に遭って、もう怖くて行きたくないとでも言い出すかと思っていたからな」
「あー」
それもそうか。学校内って、どこか安全だと思っていたんだよね。
「だから、謹慎を解くついでに、あいつを護衛に戻して、学校へも潜入させようと」
「え?学校にもって…」
「学生として、というのは、さすがに無理があるからな」
年齢的にも、頭脳的にも、と笑う火宮は人が悪い。
「頭脳って」
「馬鹿、とまでは言わないが、勉強が得意とは言い難い。あの学校の編入生がどれほど珍しく、優秀かは、おまえが1番よく知っているだろう?」
「あは」
遠回しに褒めてます?
テレッと照れたら、火宮の目がスゥッと細くなった。
「だから浜崎には、用務員のような形で校内に入ってもらう」
「用務員さん…」
「校内を自由に動き回り、フラフラとおまえの側にいるには好都合だろう」
でも学校側がそんな許可…。
「ククッ、向こうは、あんなクズを校内に招き入れてしまった落ち度があるんだ。こちらがそれを騒ぎ立てない代わりに、どんな条件も飲まないわけにはいかない。それに元々顔が利くと言っていただろう?」
「はい…」
「だから問題ない。目立って護衛のような振る舞いはさせないから安心しろ。ただ、いつもさり気なくおまえの安全を確保できる距離にはいる」
そちらも安心しろ、と言う火宮は、本当に俺を大事にしてくれて。
「ありがとうございます」
「ククッ、俺の安心のためだ。おまえには窮屈で悪い」
「っ、いえ!」
浜崎さんがずっと側にいてくれるというのは、本当に心強いよ。
平気なつもりではいるけれど、実は校内で怖い目に遭ったのは2回目だ。
さすがに怯む。
「あ、でも、余計な告げ口はナシ、の方向でお願いします」
学校生活のあれこれを、スパイまがいに報告されまくったらたまらない。
「ククッ、まぁ浜崎の判断に任せよう」
強要はしないって…。
「しなくても浜崎さんは、何でもかんでも言っちゃうじゃないですか」
火宮と真鍋の前に出たらひとたまりもない。
「そのときはそのときで諦めろ。そもそも、おまえがバラされて困るような悪事を働かなければいい」
「それはそうですけど…」
「ククッ、まぁそういうことだ。分かったら、食事にでも行くか」
作る気はないだろう?って、それはまぁ。
「はい」
「おまえの快気祝いに、食事会にでもするか」
「え?」
「真鍋と池田も誘ってやろう」
あぁ、心配してくれていたから。
確かに、元気にモリモリ食べる姿を見せてあげたいかな。
「豊峰も連れて行ってやろうか?」
「え!いいんですか?」
「特別扱いはあいつのために悪いが…浜崎と、部屋付きの数人も連れていけばいいだろう」
向こうは向こうで親睦会だ、と笑う火宮に、思い切り頷いてしまう。
「はい!」
「では迎えを呼ぶか」
「はい。あのじゃぁ…」
ローター…。
「ん?どうかしたか?」
「っ!」
まさか。
その悪ぅい顔…。
「ほら、起きて行くぞ」
「っーー!」
このどS、バカ火宮!意地悪鬼悪魔ーっ!
火宮の魂胆が分かった俺の、反省の欠片もない暴言が、室内中に響き渡ったのは言うまでもない。
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