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「うーっ」
出される料理は美味しい。
お店も俺が気疲れしない程度には、カジュアルな感じで、高級店過ぎないのもいい。
だけどただ、結局後ろから取り出してもらえなかった玩具の存在が、俺の気分を低下させていた。
「翼さん?お料理、お口に合いませんでしたか?」
心配そう…というわけではなく、相変わらず何を考えているのか分からない無表情で、俺の唸り声を聞き咎めたのは、どうやらこの店をチョイスし、予約してくれたらしい真鍋で。
「えっ?いえ、そんなことないです。とても美味しいですよ」
慌ててにこりと微笑んで、パクッとなんちゃらの肉巻きとやらを口に入れた俺に、真鍋の「そうですか」という小さな声が聞こえた。
「ククッ、こいつが難しい顔をしている理由は気にしなくていい」
「っ、火宮さんっ?」
「クックックッ、別に料理や店が不満なのでも、体調が悪いわけでもないからな」
「っーー!」
その理由を知る火宮が、心底楽しそうに口を挟んできたのがムカつく。
それに続いて、「あぁなるほど」なんて真鍋が勝手に納得しているのが気に食わない。
「んもう!なんなんですか、あなたたちはっ!」
どSとどクール。なんで俺だけ、こんな曲者2人と同じ席なんだ。
別のテーブルでは、豊峰や浜崎たち下っ端と、何故か逃げたらしい池田が、楽しそうにワイワイと雑談をしながら食事をしているのが見える。
「俺もあっちがいい」
「ふん、馬鹿言え。俺のパートナーが部下どもと同席出来るか」
「う、だってそれくらい…。何も会長サマと幹部サマまで同席しろとは言わないからさ…」
火宮たちが立場上、下の人たちと同席できない理由は分かる。だけど俺だけみんなの方に行くくらい、いいじゃないか。
「ふぅん?なんだおまえは、俺と同じテーブルで食事をするよりも、あいつらと一緒に食べる方がいいというのか」
「っーー!」
あ、やばい。
地雷踏んだ、これ。
「ん?翼?」
「っ、いいえ!火宮会長様とご一緒出来るなんて、光栄ですー」
こうなればヤケだ。
にこぉっ、と完全に作り物の笑顔を浮かべ、これでもかというほど嫌味ったらしく言ってやったら、向かいで思わずといったように、真鍋がふっと笑った。
「え…」
呆然と目が見開いてしまう。
その時にはもう、真鍋の顔は恐ろしいほどの無表情に戻っていて。
「あれ?錯覚?」
「クックックッ、本当に、おまえはな。飽きさせないだろう?真鍋」
ニヤリ、と笑った火宮の目が、真鍋に移る。
「まぁ、掘り下げ続ける墓穴がどこまで行くのか、興味深くはありますが」
「ぼけっ…」
「盗るなよ?」
「残念ながら好みではありません」
こ、の、2人はぁぁぁっ。
俺ってば完全に遊ばれている。
今日は俺の快気祝いではなかったのか。
ムッとなって、目の前の皿に乗ったローストビーフを、ガーっとフォークで掬い上げ、これでもかというほど大人食いしてやる。
「んっ。何これ、うまっ!」
牛特有の臭みがなく、驚くほどに柔らかい。じわりと染み出してくる旨味に、思わず頬を緩めてしまった瞬間。それこそ火宮と真鍋が肩を震わせた。
「え?え?」
「まったくおまえは…」
「敵いませんね」
なんなんだ?
俺、何かおかしなことをしたのだろうか。
くせになってしまったローストビーフを、今度は丁寧に1枚だけ取り上げて口に運ぶ。
「んーっ、うま」
幸せー、とうっとりしながら、向こうのテーブルにも教えてあげようと横を向いた俺は。
「へ?」
池田以下、浜崎たち部下たちが、みんなこちらのテーブルを注視して、ポロポロと箸から料理を取りこぼしている姿を見つけた。
「あの…?」
こっちのテーブルがどうかしたのだろうか。
豊峰だけが、キョトンとして、バクバクと串焼きを食べている。
「あっ、あれも美味しそう」
豊峰の串に興味をそそられて、指差しながら火宮を振り返ろうとした一瞬。
ハッとした池田たちが、慌てたようにパッ、パッと視線を逸らして、ぎこちなく食事を再開し始めた。
「………?」
「クックックッ、なんでも好きなものを頼め」
再び肩を揺らした火宮の意味は、よく分からなかった。
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