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そして土曜日。
「うわぁ、大きなお家だね」
ドーンと大きな門構えの、純和風の立派な家を、俺は呆然と見上げた。
「まぁ、組だからな。組員も大勢住んでるし、こんなもんだろ」
「そうなんだ…」
「って言うかおまえ、七重の本宅に行ったことがあるんだろ?それに比べりゃ…」
「あ、まぁ…」
確かに七重の屋敷に比べたら、まだ一般住宅に近いかもしれないけれど、それでも屋敷と呼んでいいレベルだ。
『豊峰』と表札の掛かった門から車ごと乗り入れ、庭園と呼んでいい庭を通り過ぎ、今は玄関前に佇んでいる。
「翼さん、豊峰の若」
出迎えです、と後ろから囁く真鍋の声に玄関を見れば、強面のツルツル頭のおじさんと、茶髪でチャラチャラしたガラの悪そうなお兄さんが、ペコリと頭を下げて出てきた。
「お帰りなせぇ、坊ちゃん」
「帰ってきたわけじゃねぇ…」
「そうですな。聞いとります。あ、そちらは蒼羽会さんの…」
チラリとこちらに向くおじさんの視線に、俺はペコッと頭を下げた。
「翼です。今日はお邪魔します」
「い、え、姐さん…と真鍋幹部」
しどろもどろと、どもったおじさんの声に続いて、後ろからポソッと真鍋の咎めるように名を呼ぶ声が聞こえた。
「翼さん」
「はい?」
「………」
何?と振り返った俺に、真鍋は無言で首を振り、そっと俺の耳元に顔を寄せてきた。
『翼さん、あなたのお立場の方が上です』
「え?」
『頭』
え…。下げるな、ってこと?
視線で問えば、真鍋も黙って視線で頷いた。
「あの、えぇっと、姐さん…」
「翼と」
「えっ、あ、では失礼して、翼さん、と真鍋幹部。本日はようこそお越し下さいました。組長は中で待たせていただいとります」
「どうぞ」と、おじさんに促され、スッと真鍋にエスコートされて、俺は玄関を上がる。
「坊ンも」
「あぁ」
こちらはさすが実家か、遠慮なく堂々と上がる豊峰に続いて、俺はトテトテと廊下を歩いて行った。
*
ドンと佇む木の大きなテーブルに、長押の上には、ご立派な習字の額縁。堂々と飾られた日本刀がいかにもな、二十畳くらいの畳敷の和室に、豊峰の父はいた。
「親父…」
「これはこれは、翼さんに真鍋幹部、ようこそお越しいただきまして」
スッ、と豊峰を無視するような形で、豊峰組長が立ち上がって俺と真鍋を迎えてくれる。
「あ、お邪魔してます」
「本日はただの付き添いですので、我々にはお構いなく」
建前上は、蒼羽会預かりの豊峰の近況報告、ということで訪問する、となっていたようだけれど、本音は豊峰の対面の見届けだ。
スッと頭を下げた真鍋に促され、俺はさっさと部屋の隅の下座にそっと向かう。
「付き添い?」
「親父。今日は俺が、親父に話があって来たんだ」
トン、と一歩前に足を踏み出した豊峰に、豊峰組長の視線が向いた。
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