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「改まって、なんだ?」
チラリ、と俺たちの方を気にしながらも、豊峰のお父さんは、「まぁ座れ」と、豊峰を促して、座布団についた。
「改めて、親父に言いたいことがある」
視線で促された場所に腰を下ろしながら、豊峰がぎゅっと拳を握ったのが見えた。
「言いたいこと?」
「はい」
スッと居住まいを正して、豊峰が真っ直ぐに父を見た。
「なんだ」
「俺は…」
頑張れ、藍くん。
「俺は、将来…」
「藍?」
「将来、建築家になる。大学に進学して、建築士の資格を取って…。だから、この組は継がない。継ぎたくない」
ジッと豊峰組長の目を見て、はっきりと言い切った豊峰の手が、小さく震えているのが、俺たちにだけ見えた。
「はっ、改まって何を言い出すのかと思えば。おまえはまたそんなことを言い出して…」
困ったものですな、と、豊峰の父の目が、チラリとこちらを見る。
俺はぐっ、と文句を言いたいのを堪えて、あくまで傍観を貫くと、黙って態度で示した。
「はぁっ。蒼羽会さんの方へ、修行に出た途端に、また急に…」
「っ、急じゃ、ねぇよ。俺は前にも1度、親父に伝えたじゃねぇか」
「そんなの、小学生の頃の話だろう?」
子どもの戯言だ、と、歯牙にも掛けない態度の豊峰組長に、豊峰がギリリと奥歯を軋ませた。
「俺はっ、あの時、真剣だった。今も本気でっ…」
「ふっ、本気で、建築家になる?夢物語を力説するだけなら、馬鹿でも出来るな」
「なっ…」
「藍。おまえは豊峰の家に生まれ、組を継ぐ人間だと定められている。だから、将来の夢だ、希望だなどと余計なことなど考えずに、組を守るためにどう行動すればいいかだけを考えていればいい」
っ、この人は!
イラッと思わず苛立ちに飲まれた瞬間、スッと真鍋の腕が俺の前に出て、「でしゃばるな」と目で語られた。
『っ…』
ギリッと奥歯を噛み締めながら、俺は浮かせかけた腰を落とす。
「まったく。そもそも、1度納得したことだろう?あの後、おまえは黙って、『極道の息子』として、生きてきたじゃないか」
何を今更、と呟く豊峰組長に、豊峰の目がギラリと憎しみに揺れた。
「納得したんじゃない。諦めたんだ。絶望したんだよっ!」
「なに?」
「親父がっ、あんたがっ、俺の夢を握り潰したんじゃないかっ!親父と、お袋と、俺、家族で行った旅行先の美術館の建物の写真…あんたがクシャクシャに握り潰して、俺から夢を見ることを奪い去った」
「………」
悔しさも露わに叫んだ豊峰に、豊峰組長の顔が、スッと表情をなくした。
「あんたが強要したんだ。俺は極道としてしか生きちゃいけない。俺はいずれ組長になるしかない。あの時からずっと、あんたは俺にそう強要して、決めつけてきた」
「藍、それは…」
「だけど俺は…俺の人生は、俺のものだっ」
「藍」
「俺は、ヤクザになんかなりたくないっ。俺は、親父の操り人形じゃないっ」
言ったー。
叫ぶように言い放って、きゅっと唇を引き結んだ豊峰を見ながら、俺も手に汗を握っていた。
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