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バンッ!
不意に豊峰が、テーブルの影から1枚の紙を取り出し、テーブルの上に叩きつけるように突き出した。
「なんだ?」
「見ろよ。あんたは、夢物語を力説するだけなら、馬鹿でも出来るって言ったな」
「あぁ。それがなにか…」
「だから見てみろよ。これが、俺が本気だっていう証だよ」
ずい、と豊峰組長の方に押し出されたテスト個票を、豊峰組長が不審なものを見るような目で見ながら受け取った。
「これが、なんの……ッ!」
渋々中を開いた豊峰組長の目が、その中身を見て驚いたように見開かれる。
「学年、24位だと?この高得点の羅列は…」
「一応言っとくけど、不正は一切してねぇからな」
実力勝負した、と堂々と言い放つ豊峰に、豊峰組長の目が、ゆっくりと持ち上がった。
「おまえはこれまで、勉強など…」
「あぁ、そうだな。敷かれたレールの上を歩くだけの人生、その何もかもがくだらねぇと思っていたし、ましてや勉強なんて、とことんまでどうでもよかった」
「それが今更…。おまえ、もう高2だろう?分かっているのか?藍。建築士というのは、国家資格だぞ」
「分かってるよ。俺がどんだけ出遅れてるかってことくらいは。だけど、遅くはねぇ」
そうだ。進路を決定するのはまだこれからで、受験勉強だって、まだ今からなら十分間に合う。
「っ、こんなものは、ただ1回のまぐれで…」
「まぐれかどうかはこれから証明していく!だけどただ、今回は本当に本当に勉強を頑張ったんだ」
力の入る豊峰の声に、豊峰組長が、フラリとこちらを見た。
「………」
コクリと無言で真鍋が頷く。
「真鍋幹部?」
「えぇ。若は今回、相当勉学に励まれたと思います。うちの勉強法は、かなりのスパルタで。少々の体罰も辞さない方針です」
「少々っ?」
思わず口を挟んでしまったら、「黙ってろ」と真鍋に睨まれてしまった。
「コホン、ですが若は、その私のしごきに、よくついて来たと思いますよ」
ですね?と真鍋に視線を向けられ、俺はコクコクと千切れんばかりに首を縦に振った。
「っ、何故…」
「本気だからだよ。俺は本気で大学に行きてぇんだ。本気の本気で、建築家になりたい」
揺らがず、怯まず、真っ直ぐに。
豊峰の父を見てはっきりと言った豊峰に、その口元が震えた。
「うちはどうなる」
「そんなの、他の誰かを名指しすりゃいいだけの話じゃんか。倉本だって柊だって、十分組を背負って立てる器なんだろ?外からスカウトしてきたっていい。なにも世襲じゃなきゃならねぇなんてキマリはないはずだ」
倉本?柊?と、こっそり隣の真鍋に尋ねたら、ここの若頭と豊峰の目付役です、と返ってきた。
「そんなのは、組が荒れる」
「っ、だからって…」
「現若頭の倉本と、次期組長補佐の柊とで、派閥を作る気か。内部での揉め事の火種を撒くつもりなのか、おまえは」
実子の豊峰が次期組長候補から下りれば、別の誰かが候補に上がり、それによってやれ誰についていくのが得か、自分は誰を推すだとか、内々のゴタゴタが起きるのは必死。
どうやらそういう世界らしい豊峰組の中で、豊峰が次期組長候補であることは大事なのだろう。
だけど。
「俺の人生を犠牲にしてまで、それが大事?」
「藍」
「なぁ、それ…。親父はさ、俺と組と、どっちの方が大切なんだよ…」
小さく掠れて震える豊峰の声は、その問いの答えを聞くことを恐れる響きを持っていた。
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