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「………」
1秒、2秒、3秒…。
「………」
4秒、5秒、6秒…。
シーンと静まり返った、張り詰めた空気が場を満たす。
「っ…なに、黙ってるんだよ…」
言葉を返さない父親に、痺れを切らした、豊峰の声だった。
「っ、言え、ねぇ、のかよ…」
「藍」
「それが答えなのかよっ…」
「藍っ!」
「クソッタレ!分かってた。あぁ、分かってたよ!あんたは組が大事だ。実の息子の俺よりもっ、組の方がずっと大事なんだっ…」
ダンッ、とテーブルに拳を落とした豊峰が、ぎゅぅ、と唇を噛み締めながらクシャクシャに顔を歪ませた。
「あぁ分かってたさ。あんたの1番はいつだって組で。組を守ることだけがあんたのすべてで。そのためなら、俺の希望や意志なんて、ないも同然で…」
分かってた、と呟豊峰が、ぎゅぅと拳を握り締め、小さく肩を震わせた。
「藍くん…」
あまりのその悲痛な叫びに、俺はチラリと豊峰組長の様子を窺った。
組長は、黙って深く、長く、息を吐く。
息を吐きながら、豊峰組長は、ゆっくり深く瞬きをした。
「そうだ」
っ!
な、に、言ってるの、この人…。
あまりの衝撃の一言に、俺は飛び出すことも忘れて固まった。
それは豊峰も同じだったようで、ヒュッと短く息を吸い込んだまま、ピシリと動きを止めている。
「そうだ。俺は組が何より大事だ。この組を守ることが、この組に未来をもたらすことが、俺のすべてだ」
「っ…親父…」
「それをおまえは、我を通して踏み潰すつもりだと言う」
はっ、と吐息を漏らす豊峰組長の言葉に、豊峰の目がギラリと憎しみに染まった。
「っ、そ、うだよっ!俺はっ、そんなあんたの、操り人形にはならねぇっ!俺は俺の意志を突き通す。ヤクザには、ならねぇ。組長なんか継ぐもんか」
ギリッと奥歯を軋ませて叫ぶ豊峰に、豊峰組長の目がゆるりと細められた。
「そうか。分かった。ならば藍」
「っ?」
「おまえが俺の決めた道を歩かぬというのなら、もういい」
「え…?」
「おまえはもう、いらない」
っ…。
俺でさえ、ガツンと頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
張本人の豊峰の衝撃はいかほどのものか。
そっと窺った豊峰の目が、呆然と見開かれていくのが、まるでスローモーションのように、俺の目には見えた。
「っ、そう、かよ…」
「あぁ。おまえはもういらない。豊峰の家を出て行け」
「っ…」
「勘当だ」
バッサリと。豊峰を切り捨てた父親の言葉に、豊峰の唇が、何かの言葉を作るのに失敗して、小さく震えた。
「出ていけ、藍」
「っ………分かった、よ…」
小さくポツリと空気を揺らして、頼りなく掠れた豊峰の声が響く。
「っ、出てってやるよっ!勘当でもなんでもされてやるっ…」
バンッとテーブルの上に両手を叩きつけ、テスト個票を引ったくるように取り上げ、豊峰が立ち上がった。
「あんたはもう、俺の父親でもなんでもねぇよ…」
くしゃりと個票を握り締め、ぐっと唇を噛み締めた豊峰が、キッと父親を睨んで、パッと身を翻す。
震えて湿った小さな声を1つ残し、豊峰は、飛び出すように部屋を出て行った。
「っーー!藍くんっ…」
豊峰を引き留め損ねた俺の叫び声が、ピシャリと閉じられた襖に、虚しく跳ね返された。
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