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「ふふ、なんだか久しぶりですね」
火宮運転の、国産SUV車の助手席から、俺はウキウキと窓の外を流れる景色を眺めていた。
「ククッ、楽しそうだな」
器用にステアリングを回しながら、火宮がチラリと視線を向けてくる。
夏に向かう陽射しが眩しいのか、今日の火宮はサングラスをかけていて、それがまたモデルばりに似合うからたまらない。
「っ…それはそうですよ」
大好きな恋人と、2人でお出掛けなんだから。テンションが上がらない方がどうかしている。
「ククッ、まったく、可愛いな」
「っな…?またそうやって揶揄って」
「クックックッ、そうしてむくれる顔も可愛くて好きだぞ」
「っーー!」
もうなにこの人。
どかっと熱くなった顔が、カッカする。
だけど…。
「う、浮かれてます?」
軽やかなハンドル捌きがなんだか火宮のテンションの高さを物語っているようで。
「さてな」
「っ、ふはっ」
なんだ。可愛いのはあなたもじゃないですか。
久しぶりのデート。浮ついてるのは火宮も同じだ。
「くふふ…」
「なんだ、その笑いは」
「べぇっつにー?」
ビシッとサングラスなんかをキメちゃって、誰もが見惚れるほど格好いいあなたなのに。そんな可愛い態度を覗かせるんだから。
もうたまらない。大好き。
愛おしい。
「ふっ、まったく、おまえには敵わないよ」
「ほぇ?」
敵わないのは俺の方でしょ。
その意外な一面に、ズブズブに溺れちゃっているんだから。
「ククッ、おまえだけが、俺をこうさせる」
「っ!」
だーかーら、今日は一体どんな出血大サービスなんですか。
火宮の甘い言葉の海に、俺は溺死寸前だ。
「もっ、バカ…」
「クッ、言うな。それで、翼、ご指定の店はあるか?」
スッ、と優しく丁寧に赤信号で停車した火宮が、チラリとこちらに視線を向けてきた。
そのサングラスの向こうの目は、きっと意地悪く細められて、だけどきっと楽しげな光を宿して揺れているんだろうな、って見えなくてもなんだか分かる。
「特にありません。火宮さんにお任せで」
「そうか。分かった」
緩く弧を描いた口元が、心地良い低音を響かせる。
あぁ、好きだな。その低くて艶のある火宮の声。
サングラスに隠された目元も、形のいい眉もスッと通った鼻筋も、整い切ったその横顔も。
「はぁっ、やっばい…」
スゥッと走り出した車内で、スマートに運転をこなす火宮に、思わず見惚れてしまう。
「ククッ、穴が空く」
「っ!」
やばい。
見つめまくっていたのが、しっかりバレてる…。
「べ、別にっ、火宮さんを見ていたわけじゃないですからねっ。俺はただっ、そのっ…そっちの窓の向こうの、景色をですねっ…」
「こちらのな?」
「っ…」
あぁやばい。
そちら側はただの遮音壁が続いているだけだということに、火宮の意地悪な色に変わった声を聞いてから気がついた。
「ククッ、本当、おまえは」
「っーー!」
もう、うんともすんとも言えなくなった俺が、ぐっと黙り込んで俯いたところで、火宮の運転する車が、スゥーッと角を曲がり、高級デパートにたどり着いた。
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