アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
537
-
「なぁ。あいつら、何やってんだ?」
ふと、火宮のものじゃない声が、耳に飛び込んできた。
「はぁっ。またどうせ、くだらないお戯れでしょう」
あ、この呆れ果てた声。あの人しかいないよね。
「なになに?まさか、会長が、火宮翼くんと目隠し鬼っ?」
うひゃぁ、レアなもの見ちゃった、と笑っているのは夏原だ。
「いい大人と高校生が鬼ごっこ…」
なんなのあれ、と不思議そうにしているのは、この元凶にもなった紫藤だろう。
「うわっ、とと…翼さんっ?」
突然、ドサッ、と目の前で、人が転んだような音がした。
「危なっ…。ちょ、目隠ししてなにをやってるんすか?」
「あ、ごめんなさい」
浜崎さんかな?
俺、ぶつかりそうになっちゃったのか。
「翼」
っ。突然割り込む声に、俺はピクッと肩を震わせた。
火宮さんの声だ。
方向は…。
あちらこちらから色んな声がして、気を取られた俺は、思わず火宮の居場所を見失う。
「火宮さん!」
どこだ?
キョロキョロと巡らせた首に、火宮の笑い声が届いてきた。
「ククッ、おい、おまえたち、翼を呼べ」
うわー、そういう意地悪をするんだ。
「会長?」
「ククッ、翼。聞き分けてみせろ。おまえが辿るのは、俺の声だ」
傲慢に揺れる火宮の声が、少し遠ざかった。
「翼」
「翼さん」
火宮のものじゃない呼び声。
「おーにさんこっちら」
クスクスとふざけて弾んだこれも違う。
「火宮くん」
だから、呼び方で区別出来ちゃうんだけど。
さすがに自分の呼ばれ方まで記憶するなとは、火宮も言わないよね?
「翼」
っ!いた。
ほら、俺はこんなにもはっきりと、あなたの声とその方向を聞き分けられる。
ふらりと踏み出した足は、迷いなく今、火宮の声を捉えた方向へと進む。
「刃」
そこにいるのは分かってる。
俺の想いを、あまりみくびらない方がいい。
「「「「翼」」」」」
っ…。
全員が、一斉に俺を、統一した呼び方で呼んだ。
火宮の指示か。
「っ…」
「翼」
「翼」
「翼」
あっちからもこっちからも、俺を呼ぶ声がする。
「翼」
「ふふ…」
分からないと、思うのか。
「つ、翼」
こんな仕掛けに惑わされるなどと…。
『翼』
ーーッ!
ほら、やっぱり。
俺が、世界で1番大好きな人の声。
聞き慣れた、呼ばれ慣れたその、低く色気を含んだ、耳に心地いい愛おしい声を、聞き間違えるわけがない。
「あなたはそこだ」
迷わず、怯まず、火宮の元へただ一直線に、他のどんな雑音も振り払って突き進む。
「刃」
間違いない。
今の声を発した人は、この先にいる。
「ッ…」
わずかも迷わずに、タンッと床を蹴って、目の前にある人の気配に手を伸ばす。
そのまま勢いをつけて、思い切りその人に飛び込んでいった俺を、トスンとその人が受け止めた。
「刃」
当たりでしょう?
見えないままの目を、ふらりと顔ごと持ち上げる。
「捕まえました」
ニィッ、と唇を吊り上げてやったら、ゆっくりとアイマスクに『その誰か』の手が伸びてきた。
あ。火宮さんの匂い。
ふわりと揺れた空気から、そんなことさえも分かる。
「ふふ」
確信的に笑ってやったら、スルリと外された目隠しの向こうに、艶やかに笑う火宮の美貌が見えた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
538 / 781