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結局、どれくらいぼんやりと床に座り込んでいたか。
ようやく動く気になった俺は、のろのろと床から立ち上がり、朝食のためのパンを焼いた。
簡単に卵をスクランブルにし、冷蔵庫を漁ってハムを取り出す。
「牛乳…はストックが切れたからオレンジジュースでいっか」
目についたジュースをグラスに注いで、適当極まりない朝食が完成した。
「いただきます」
1人のダイニングテーブルで、1人で朝食を腹に収めていく。
「んー、今日も暇だな…」
夏休みの課題はもうすべてやり終えているし、自主勉、と言っても、なんとなくやる気が起きない。
ゲームや漫画もすでにやり過ぎて興味が尽きている上、掃除や洗濯の家事があるわけでもない。
「そうだ。藍くんでも誘って遊びに行こうかな」
名案だ、と、ふと思いついた考えに満足しながら、俺は手早く1人の朝食を済ませて内線電話に向かった。
怠そうにしながらも、そこは蒼羽会預かりの使用人。雇い主の本命である俺の言動は、無視できないらしい。
面倒くさい、かったるい、とブツブツぼやきながらも、浜崎と一緒に外出の支度を整えて迎えに来てくれた。
「あ、いらっしゃい。ちょっと待って、すぐ行くから」
ひょこっと玄関に顔だけ出して、棚からスマホを取り上げてポケットに突っ込む。
「ごめん、お待たせ。浜崎さんもすみません」
「いえ」
「ったく、急に暇だから出掛けよう、って。思いつきが突然過ぎんだよ」
「あは。ごめん。なんか予定あった?」
「いや、別にねぇけど」
靴を履いて玄関を出た俺は、豊峰にぶつくさ言われながらエレベータに向かう。
「んで?どこか行く場所決まってんのか?」
サッと脇からエレベータを作動させてくれた浜崎にペコリと頭だけ下げて、その小箱の中に乗り込んだ。
「あー、特には」
「うぉぉい」
「だって暇だったから…。藍くんはどこか行きたいところとかないの?」
「ねぇし」
なんだそりゃ、と呆れている豊峰に、それもそうかと思う。
「うーん、そうだなぁ。藍くんは、普段遊びに行くときはどこ行くの?」
「俺?俺はまぁ、ゲーセンとか、本屋で立ち読みとか。そんな程度」
「ゲーセンかぁ…」
パッとしないな。
「じゃぁ、アミューズメントパークとか、ボーリングとか行くか?」
「2人で?」
「サムイな」
「あっ、なら紫藤くんは?それから、リカとかタクトたちも誘うとか!」
大勢ならありかも、と提案すれば、何となく豊峰の顔が嫌そうに歪んだ。
「和泉を…?」
「え?」
「っ、いや、なんでもねぇ。けど、こんな急に誘って、集まるかぁ?」
無謀だと思うけどな、と笑う豊峰が、とりあえず、とスマホを出したところで、エレベーターが1階にたどり着いた。
「翼さん、どうぞ」
サッと素早くエレベーターから降り立ち、ホールの安全を目視で確認した浜崎が、降りていいと促してくれる。
「ありがとうございます」
扉が閉まらないように手で押さえてエスコートしてくれる浜崎に礼を言ってエレベーターを降りた俺は、後からスマホを弄りながらついてきた豊峰を振り返った。
「でも言っとくけど俺、和泉の連絡先しか知らねぇからな?」
「えっ?俺も知らない…」
紫藤どころか、俺はリカやタクトたちの携帯番号もわからない。
「はぁっ?…しゃーねぇな…とりあえず和泉に連絡して、あいつならもしかしたら知ってんだろ」
「う、うん」
豊峰が電話をかけ始めてくれたところで、エントランス前にスーッと送りの車が横付けされた。
「翼さん、行き先は…まだ決まっていないっすよね?とりあえず、乗ってください」
俺たちの会話を聞いていたらしい浜崎が、苦笑しながら後部座席のドアを開けてくれた。
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