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「火宮殿。連様をどうか」
繰り返し、火宮に連の許しを乞う劉の声が響いた。
冷ややかな顔でそれを見下ろしていた火宮が、カツンと1歩、その足を前に進めた。
「クッ、連」
ハッと冷たく息を吐いた火宮を、ぼんやりと見上げてしまう。
ピクリと肩を揺らした明貴が、のろのろとその顔を持ち上げた。
「中国、六合会首領、連明貴。あなたは、もう少し自分の持ち駒をよく顧みてやる方がいい」
「ひ、みや…?」
「あなたを想ってくれる者は、存外近くにいるようだぞ?」
ククッと笑う火宮の様子に、ふ、と力が抜けるのを感じる。
「あなたの最側近に免じて…それから、俺の優しすぎるイロに免じてな」
クッと喉を鳴らす火宮が、「来い」と視線で命じて俺に手を伸ばす。
「っ…」
咄嗟にパッと足に力を込めた俺は、そのまま飛び込む勢いで、火宮の元に駆けていった。
「許せ、と2人がかりで説得されては、そうするしかあるまい」
ぼすっと腕の中に収まった俺の頭を、火宮がぽんと撫でる。
「こちらの右腕を痛めつけてくれた件、そちらの右腕の目玉で手打ちだ」
「っ、火宮殿っ…」
ホゥッと安心したような劉の吐息が漏れた。
「ただし、落とし前金は倍額。組織と公安の処理は仕方ないから請け負ってやる。ただで、とは言わないがな」
「火宮…?」
「ククッ、次回のうちとの取り引きだが、8、2でうちに利のある条件で受けてもらおうか」
ニヤリ、と唇の端を吊り上げる火宮は、さすが、ヤクザの頭で、今回重職に就任した、やり手の理事様だった。
「くっ、了承、した…」
悔しげに唇を噛む明貴だけど、その目がキラリと頼もしそうに火宮を見ているのは、隠しきれていない本心か。
「それから、最後。俺の大事な大事なイロを攫って軟禁してくれた件だがな…」
スゥッと薄く目を細めた火宮に、俺はきゅっと抱きついた。
「ふっ、この、口ほどにものを言う目。いいだろう、仕方がない」
「火宮?」
「クッ、このまま、黙って身を引くのなら…大人しく翼を諦め、2度と奪取しようなどと目論まないと誓うなら、それで水に流してやる」
「っ、火宮ッ…」
きゅぅぅっと辛そうに眉を寄せた明貴の、切なく苦しい表情を、俺は火宮の腕の中から、そっと覗き見た。
「これに執着せずとも、あなたには、あなたを1番に想う、大切にするべき者がいるのではないか?」
ふわりと目元を緩める火宮が、愛おしそうに俺を見下ろしてくる。
きゅん、と胸が締め付けられるようなその表情に、へらりと泣き笑いが浮かんでしまう。
「これは俺のものだ」
「っ、火宮さんも、俺のものだっ…」
ぎゅぅっとしがみついた俺の背を優しく撫でて、火宮がうっとりと微笑んだ。
「誰にも渡さん」
「俺も」
スッと取られた左手を、恭しく捧げ持たれる。
「羨んで、見失う前に」
「っ、あ、あ、刃…」
「目を覚ませ」
ククッ、と喉を鳴らした火宮が、スルリと魔法のようにリングを取り出し、きゅっと俺の左手薬指に嵌めてくれる。
「その、孤独も、重責も、己の偶像も、その本質も、全てを理解し、寄り添い、支え、高め合う。俺たちのような人間の至宝。分かるから、許そう。分かるから、気づいて欲しい」
俺とあなたは同じだ。
そう囁くように告げた火宮の言葉に、俺は先日の明貴とのやり取りを思い出してハッとした。
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