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「ふぅ、さっぱりした…ぬぁ?!」
シャワーを済ませて出てきたリビングで、いきなり電子音が鳴り響いた。
「あ、スマホ」
真鍋にもらったままの、1番オーソドックスな単調な着信音が鳴っている。
取り上げたスマホのディスプレイには『火宮』の文字。
「はい、もしもし?」
『俺だ』
わー、電話越しでもいい声。
っていうか、その出方、一時期流行った詐欺ですか。
『翼?俺だ、火宮だ』
そうそう。ディスプレイに表示されてても、名乗るのが礼儀でしょ。
って、心で思っても、賢明にも口には出さない。
学習能力発揮だ。
『おい』
「っあー、はい。おはようございます」
『……』
「火宮さん?」
あれ?なんかやな感じの無言。
『はぁ。一体何を考えていたのかわかるけどな』
呆れた溜息から、なんだか見通されている気がする。
それはヤバイ。
「いやっ、その、いい声だなーって聞き惚れちゃっただけでっ」
『ほぉ。媚びることを覚えたか』
「媚びっていうか、半分本気ですよ!」
あ。言ってから気づいた。
口、また滑った。
『プッ……『社長っ?!』…』
あれ?真鍋さんの声だ。なんか慌ててるけど。
きっと仕事中で一緒にいるのだろう。
遠くで微かに排気音とクラクションの音がするから、移動中の車内か。
『半分ね。ふん、俺はけちくさい詐欺なんかしないよ』
「なんで分かっ…」
『クックックッ、本当、おまえはな』
「あー、す、すみません…」
電話越しだし、口には出していないし、表情すら見えないのになんで見抜くかな。
驚いてついうっかり認めてしまったけど、怒っていないようでホッとする。
『まぁいい。身体は大丈夫か?』
「あ、はい。おかげさまで」
またも遠慮なく熟睡させてもらったもので。
『そうか。今夜は夕食前に帰れる』
「あ、わかりました」
『じゃぁな。いい子にしてろよ』
「いい子って…」
確かに火宮から見たら子供だろうけど。
『約束、覚えているな?』
「ッ!お、覚えてますよっ。っていうか、朝から変なこと言いださないで下さいっ」
『クックックッ、破るなよ』
「し、知りませんっ」
あ、ヤバイ。勢い余って切っちゃった。
「だってわざわざ…火宮さんが悪い!」
折り返してくるかな、と思った電話は、手の中でシーンとしていた。
「うん。まっ、いっか。さぁて、夕食のメニューだ。火宮さんがいるんじゃ、何にしよう」
無礼を働いてしまったことを無理やり意識の外に追い出して、あれこれメニューを思い浮かべながら内線電話に向かった。
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