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「翼」
「っ、はい」
「それはどうした」
「それ?」
どれ?
後ろを振り向いてみたら、火宮の視線はジッと俺の下半身の辺りに向かっていた。
「あ…」
「クッ、かなり赤みが残っているようだが?」
揶揄うように揺れる火宮の声に、羞恥で身体が熱くなった。
「だって…真鍋さんが…」
「真鍋が?」
「ちょっと怠けただけで…こんな」
「フッ。だから忠告してやっただろう?」
ツゥーッと悪戯にお尻を撫で上げた火宮の指が、ピンッと意地悪く弾かれた。
「ったぁ!」
「ククッ、手酷く叩かれたようだな」
「っ、だって…」
「いいと思っているのか?」
「え?」
いいって何が?
「俺の所有物に、こんな跡を勝手につけて」
「っ、は?」
勝手って、そもそもつけたのは真鍋で、その許可を出したのは火宮じゃなかったか。
「ひゃぁっ!痛ッ!」
パァンとお尻で弾けた平手の音と、突然の痛みに身体が跳ねた。
「何するっ…」
「仕置きだな」
「え?」
突然の言い掛かりについていけない。
「これは俺のものだろう?勝手に跡をつけるなど許さん。躾けが必要だな」
「ちょっ、待っ…。なんでっ?!」
ぐいっと上半身を押さえつけられて、ガクッと膝が挫け、咄嗟に突き出した両手が床につく。
ハッとしたときにはもう、俺は火宮の足元で四つん這いになっていた。
「ちょっ、いやっ、火宮さんっ」
「なんだ」
「仕置きって、だって、火宮さんが許可したからっ、俺は叩かれたんですよねっ?!それで跡がって…なんで怒る…」
だったら最初から許可なんかしなければいいものを。
これはあまりに理不尽過ぎる。
「フッ。何を勘違いしている。俺が許したのは、真鍋に、翼を罰する権限だ」
「は?だから…」
「もし翼が甘えを見せたり、聞き分けのない態度を取ったりした場合、多少手厳しく咎めてもいいかと聞かれたからな」
「え…」
「構わんと答えた。ただし、消えないような跡はつけるな、と」
えーと?つまり?
「だから、俺は叩かれて…」
「違うだろ」
「え?」
「俺が許可したから翼が叩かれたんじゃなく、翼が真鍋を侮って弛んでいたから罰を受けたんじゃないのか?」
目を眇めて俺を射抜く火宮の言葉は、完全に正論だった。
「っ、そう…な、る…」
「だろう?おまえが真面目に勉強に取り組んでいれば、真鍋はおまえを痛めつけるようなことはしない」
「う…」
「だからこそ俺も許可を出した。翼が何もやらかさなければ、何の問題もないと思ったからな」
「っ…」
「それが、結果はどうだ。念のため、忠告までしてやったのにな。フッ、だから翼、悪いのはおまえだろう?」
言い掛かりかとも思えたが、火宮が言っていることは間違ってはいなかった。
確かに俺が勉強に集中していれば、いくら火宮が許可したからといって、ぶたれるような羽目にはならなかったわけで。
俺のせいか…。
吊り上がった唇の端と、悠然と俺を見下ろしてくる双眸が、妖しい光を反射した。
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