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ぎゅっと膝を抱えた腕が震える。
寝室に逃げるようにやってきた俺は、ベッドの隅で小さく身体を丸めて、体育座りをした膝に頭を預けた。
火宮が追いかけて来ないことにホッとする。
けれどいつまでも避け続けるわけにもいかないことも分かっている。
「っ…あなたのことが好きですよ…」
なのに。
その気持ちは変わらないのに。
ポツリと落ちた黒い染みが、ジワリ、ジワリとその気持ちの中に広がっていくのを感じる。
1度生じた不信感は、拭うことのできない染みとなって心を蝕んでいく。
「俺はどうしたら…」
火宮のことが嫌なわけではない。
だけどただ、あの冷たさを許容できない。
「俺は…」
火宮がヤクザの頭だということは分かっていたはずだ。
そうだ。ドラマやマンガとかでだってよく聞くじゃないか。
ヤクザの上の方の人についてる、ボディーガードの人たちは、弾除け、なんて露骨に呼ばれてる。
火宮にとっては自分の盾となって当たり前の存在で。
その人たちにとってもきっとそうして主人を守ることは当たり前で、負傷も名誉で本望で…。
「そうだ。そうだよ。ヤクザの頭と付き合うっていうのは…そういうのを…っ、だけど俺はっ…」
やっぱりそんなのは嫌なんだ。
綺麗事なんだろうけれど。
それでも俺は…。
「お見舞い、やっぱりお願いして、ちゃんと行かせてもらおう…」
火宮みたいにはどうしたって割り切れない。
護衛をもののように扱う火宮を、どうしたって理解なんかできない。
「きっとぶつかる…」
喧嘩になるかもしれない。
ヤクザの会長の本命としての覚悟が足りないと責められるかもしれない。
「だけど、それでも。俺は俺の気持ちをちゃんと伝えないと…」
グッと腹に力を入れて、俺は俺の気持ちを確かめる。
「俺はやっぱり、あの冷たさを、許せない…」
うん、と頷いた心が決まった。
抱えていた膝を離し、ゆっくりと頭を持ち上げる。
そっとベッドを下りて、リビングへ出て行く。
そこに、数分前までいたはずの、火宮の姿はなかった。
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