アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
200
-
「あぁぁぁっ…」
ボロボロッと溢れた涙を、もう堪えることはできなかった。
「ごめんなさ…」
気づいたときにはもう、身体が火宮の腕の中に抱き込まれていた。
「翼、愛している」
囁くような低い声。
知ってる。分かってる。
廣瀬に向けたあの言葉たちは、いつだって火宮が俺にくれていたもの。
「おまえが望むなら、なんだってしてやる」
あぁそうだ。
火宮が望んで欲しかったのは、死なんかじゃなかった。
俺だけ愛して。俺だけ見てて。
ただ素直にそう強請ればよかった。
だって火宮は叶えてくれる。
それだけの愛を、言葉を、想いを、俺はいつだってもらっていたのに…。
「火宮さんっ…」
信じなくてごめんなさい。
あなたは俺を、ちゃんと分かってくれていたのに。
「ごめんなさい…」
俺はその思いに応えられなかった。
「痛かっただろう?」
そっと右頰に触れてきた火宮の手が、真綿よりも優しくそこを撫でた。
「っ…」
フルフルと首を左右に振る。
こんなの、火宮が受けた心の痛みに比べたらなんともない。
それに、右頰。
だって火宮の利き手は右手なのに。
対面でぶたれたのに。
「手加減なんて…。気遣いなんて…」
わざわざ左手を使って。痛みの心配までしてくれて。
どこまで、どこまで俺は大事に想われているんだろう。
「っ、火宮さん」
「なんだ」
「火宮さんっ、好きです」
「あぁ」
もう止まらない。
「俺っ、馬鹿でしたっ」
「ククッ、そうだな」
「俺っ、すごく我儘なんです」
「ほぉ?」
「奥さんっ…もらったら嫌ですっ」
「分かった」
立場とか、出世とか、体裁とか、火宮にあるのは分かっているのに、分かりたくない。
「っ!俺っ…すごく欲張りなんですっ…」
俺には愛しかない。
愛しかあげられないのに。
「俺は他の誰かと火宮さんを共有することはできません」
「あぁ」
「俺をっ、俺だけを…ずっと愛して、欲しいですっ…」
何にも持たない俺のくせに、すごくすごく欲深い願いなのは分かってる。
「当然だ」
「っ…あぁぁっ、こんなっ、こんな俺なのにっ…」
子どもで、男で、意地っ張りで、我儘で欲張りで、勝手に突っ走って、迷惑ばっかりかけて…駄目なところを上げたらきりがないのに。
「そのおまえがいいと言っている」
「っ…火宮さんっ…」
「おまえだけを一生愛し抜くと言っただろう?」
「は、い…」
スンスンと鳴ってしまう鼻を、火宮が笑う。
「ククッ、だからおまえは安心して、こうして俺に、我儘も欲求も全部思いのまま口にすればいい」
「っ…」
あぁそうだ。
この人はこうして、俺に向かっていつだって両腕を広げて待っていた。
「それが何をとち狂ったか殺せとな」
「ごめんなさい」
「翼、俺はな…」
「火宮さん?」
「俺は、この世で唯一…ただ1人、おまえと共に、生きていきたいと思っている」
っーー!
涙が、さらに堰を切ったように溢れ出した。
この人の歩く人生に。生きたいと思う道の中に。
隣にちゃんと、俺が存在してる。
火宮の描く未来には俺がいる。
「っ、俺もっ!俺も、火宮さんとっ…あなたとっ…」
「あぁ」
「ずっと…生きた、い…」
ぎゅう、としがみついた身体が、声が、想い溢れて小さく震えた。
「それでいい」
ククッ、と鳴らされた喉の音は、愉悦と満足に溢れていて。
「じゃぁそれが、殺せなどと、今までで1番の暴言となった仕置きとでもいくか」
「え…」
待って。何この怪しい雲行き。
「俺の心より、あんな小物の言葉に惑わされて」
「それは…」
でもさっきもうぶたれたし!
「ククッ、どうやらまだまだまだまだ…俺の想いが伝わりきれていなかったようだしな?」
嫌味なまでに繰り返される、その「まだ」は、何!
ニヤリと頬を持ち上げた悪い笑みからは、嫌な予感しかしない。
「その辺りも含めて、今夜はたっぷりと、俺の愛を身体に教えてやる」
「っな…」
「喜べ、翼。今夜はじっくり躾直しだ」
嬉しい要素がそのどこにっ?!
「真鍋」
「はい」
「例の件は明日だ。連絡しておけ」
あ。そういえば真鍋さん、まだいたんだった。
「かしこまりました」
待って。綺麗にお辞儀して、出て行こうとしないで。
「助け…」
「翼」
「っ!」
やば…。
うっかり真鍋に縋ろうとしてしまったけれど…。
途端に冷ややかなオーラを醸し出した火宮に、ギクリと身体が強張った。
「おまえは本当に…」
「や、あ、そのっ、ごっ、ごめんなさいっ!」
地雷踏んじゃったよー。
「ふぅっ。真鍋。1つだけ言い残させてやる」
え?な、に?
火宮から漂った不穏な空気と、真鍋が軽く瞠目してから、ニコリと笑った顔が怖すぎる。
だって目が笑ってない。
「ありがとうございます、会長。では、苦痛のみを両手の指ほど」
「ふん。やっぱりおまえはタチが悪い」
「あなたほどでは」
「分かった。聞き届けよう」
「ありがとうございます」って、とてもとても優雅なお辞儀を残して、結局真鍋は退室していってしまったけど。
「え?え?何…」
2人が交わした言葉の意味はわからないんだけど、良くないことだけはなんだか分かって…。
「火宮さん?」
「ククッ、まぁ鞭と指定しなかっただけ、慈悲があったか」
「は?え?ちょっ…」
2人だけで分かり合って、何なの!
ムカつく!
「ククッ、なんだそれは、焼きもちか?」
「え…?」
俺、また口に?
「ふっ、本当におまえはな…。俺はおまえ一筋だと、これほど伝えているというのに…」
「う…」
「今夜は本当に、楽に終われると思うなよ?仕置きも愛も、嫌ってほどくれてやる」
わぁぁーっ!
抵抗むなしく、ズルズルと引き摺られていくその扉は寝室か。
「火宮さんっ…」
「なんだ」
「っ!」
駄目だこれ…。
完全にスイッチ、オン状態。
瞳の中でキラリと光ったサディスティックな輝きに、もうこうなった火宮を止めることはできないと、俺はどこかで諦め、腹を括った。
「まぁ最大級の暴言を吐いたのは俺ですからね…」
「ククッ、いい覚悟だ」
ニヤリと笑った火宮の意地悪な笑みと、それはそれは愉しそうな声に、けれどもホッと緩んだ気持ちは、なんだっただろう。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
200 / 781