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ピン、と空気が張り詰めた。
俺と火宮が睨み合い、蒼羽会の人間が誰も動けない、強張った空気が流れた。
モゾモゾと動くのは、地面に這い蹲った先輩たちで、微かな呻き声を上げているのも彼らだ。
その他の音が、一切止んだ倉庫内の空気を、一瞬のちに破ったのは、火宮の方だった。
「真鍋」
静かな呼び声が響く。
端的に名を呼ぶだけのそれは、俺を退かせろという命令か。
ーー退きませんよ。
睨みを利かせて、俺は再び首を左右に振った。
先輩を撃ちたければ、あなたがその手で俺を強制的に排除してからにして下さい。
つまりはその銃口を、俺に向ければいい。
「翼!」
怒鳴られたって退くもんか。
あなたに先輩は殺させない。
俺はやっぱり、最後のその一線だけは、あなたに越えさせたくはないみたいです。
「翼…」
思わず自分の顔に浮かんでしまった笑みには気づいていた。
火宮が驚いたように軽く目を見開く。
どうしてもと言うのなら。
ーー俺がやる。
ゆっくりと踵を返し、次にはパッと池田の手にしたナイフに狙いをつけ、俺はそれを奪い取りに行った。
「ッ…」
俺を傷つけまいと怯んだ池田の負けだ。
バッと略奪したナイフは、俺の手の中にある。
「翼っ!」
銃は扱えないから、俺はコレを使わせてもらうよ。
すでに人の血に塗れたナイフは、もう光を弾かない。
突然のことに息を乱した火宮たちが反応できない隙をついて、俺は主犯だという先輩を仰向けに押し倒し、馬乗りになって、ナイフを頭上高く振りかぶった。
「やめろっ!駄目だ、翼っ!」
「翼さんっ」
火宮と真鍋が地を蹴った音がする。
けれどももう遅い。
あなたがそう願うのと同じで、俺もあなたに人の命を奪ってなんて欲しくないんです。
ザンッ、と躊躇いなく振り下ろした刃が、ガツッと鈍い手応えを得た。
ジワリ、と、先輩の下に溢れ出た液体が、ゆっくりと地面に広がっていき、膝をついた俺のズボンを濡らした。
「ッ…翼」
すぐ間近から火宮の声が聞こえて、俺はジーンとした痺れが伝わったナイフの柄から、ゆっくりと手を離した。
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