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「っ!」
初っ端から、そんな波乱の幕開けとなった体育祭。
すでにやらかした感をひしひしと感じながらも、開会式の集合時間となってしまい、俺は火宮に会わずに集合場所へ向かった。
火宮も無理矢理側に来ることはなく、けれども開会式の間中、ピリピリとした嫌な視線を肌に感じていた。
「ぷぷ、翼。顔、顔」
開会式が終わり、戻ってきた応援席で、豊峰が、俺の顔を覗き込んで笑った。
「顔?」
「すげぇ引きつってんぞ」
「あー…」
それはそうだ。
だってさっきからずっと、火宮の視線を感じっ放しなんだ。
そのくせ近づいてくることはせず、声を掛けても来ないけれど、ジッと俺を見ていることだけは感じる。
いっそ文句の1つでも言いに来てくれれば、諦めもつくのに。
だからといって、こちらから参観者エリアに行く気にもなれず。
「生殺し」
「でも怒ってる風には見えねぇぞ?」
「表面に出さないところが怖いんじゃない」
そういう芸当をサラッとできちゃう人なんだから。
「まぁさすがはヤクザのトップか?それより問題は……」
「問題?」
「ほら来た」
「え?」
なんのことだと首を傾げたところに、キャッキャとした明るい声が掛かった。
「つ、ば、さ、くーん」
「うぇ、リカ」
1つ目の競技を終えたらしいリカが、応援席へと戻って来ていた。
「うぇ、って失礼じゃない?私の勇姿、見ててくれた?」
「あー、うん、すごかったー」
視界の端に映っていた、女子たちが砂埃を上げて、タイヤを取り合っている姿は見えていたけど、どこにリカがいたのかはわからない。
「その感情のまったく篭ってない声。いっそ清々しいわ。いいけど、それより、あ、そ、こ」
ふふ、と悪戯っぽく笑うリカの示す先には、当然のように火宮の姿がある。
「聞くまでもないんだけど、あれがカレシさん?」
聞くまでもないと言いながら、確信的に聞いてくるのはどうなんだ。
「他人。って言いたいけど、当たり」
真鍋の姿がないから、誤魔化そうと思えば出来ないこともないだろうけど、リカにはきっと無駄だ。
「やっぱりね。本当にあの美形様と張るねー。美形様がクールなキレイ系の美人で、つーちゃんのカレシさんは、かんっぺきに整った男前のイケメン。やばい、2人揃ったところが見てみたい。で、今日は美形様は?」
「あー?」
「来ないなんて言わないよね?」
ずいっ、と詰め寄ってくるリカから、同じだけ上半身を逸らして逃げる。
「つーちゃん?」
「来る!来るよ、昼頃、昼ご飯持って」
あぁこの情報は与えたくなかった。
だけどこれ以上迫られると、俺の身もリカの身もやばいから。
ホールドアップで叫ぶように吐き出した俺に、リカの顔がそれはそれは綺麗に笑みを浮かべた。
「じゃぁ昼休憩、押し掛けるから!紹介して」
目が完全にハートマークになってキラキラ輝いているリカに、頷く以外の選択肢を持たせてもらえなかった。
「じゃぁよろしく!」なんて言い置いて、次の競技に向かうらしいリカを見送って、盛大なため息が漏れる。
「まぁなんだ。ご愁傷様」
「他人事だと思ってー」
ポン、なんて肩を叩いて慰めてくれる豊峰だけど、無責任なことこの上ない。
「まぁな。ほら、翼。俺らも入場門に行くぞ」
「あ、全員リレー…」
クラス対抗の全員リレー。プログラムに書かれた2つ後の競技名を見て、俺はまたリカが張り切っているんだろうな、と思いながらも、ダラダラと席を立った。
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