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「はぁぁっ、疲れたー」
がくぅっ、と脱力した身体が、フラフラと室内に進む。
披露目式を終えた俺は、披露目式会場の上、火宮が取っていたホテルの部屋に移動してきて、ようやくひと息つけた。
「ククッ、そんなに疲れたか」
ポン、と後ろから頭に乗った火宮の手が、くしゃりと髪を撫でる。
シュルッとネクタイを解きながら、俺の横を通り過ぎた火宮が、そのまま真っ直ぐ窓辺まで歩いていった。
「まぁほとんどが気疲れですけどね」
色んな意味で、と嫌味を込めて見た火宮の顔が、壁一面の大きな窓ガラスに映り、ニヤリと歪む。
「ククッ、俺の評価が、とか言っていた割には、途中から随分と好き勝手してくれていたようだが?」
「それは…」
確かにあまりに自然体でいすぎた感はある。
「クッ、まぁいい。上出来さ。ほら、来てみろ」
不意に誘われて、俺はふらりと、窓辺に佇む火宮の側まで足を運んだ。
「うわぁ、綺麗」
眼下に広がる煌びやかな夜景が美しくて、思わず言い訳も忘れて感嘆の声が漏れた。
「それで、どうだった?」
「え?」
「正式に、俺のパートナーだと公表されて」
チラリと見上げた火宮の目は、夜景ではなく、ガラスに映った俺と火宮が並んだ姿に向いていた。
「っ、火宮さんが言ったこと…俺の周りの環境が変わるっていうのを、実感しました」
「そうか」
「俺は、蒼羽会会長の本命として重んじるべき存在で、だけど同時に利用価値のある存在でもあるんですね」
俺を足掛かりに、火宮への繋ぎをつけようと、利用目的で近づかれることもある。
それを披露目式で痛感し、握った拳に力が入った。
「させないさ」
ふっ、と軽く笑った火宮の顔が夜景に彩られた窓ガラスに浮かんだ。
「そうですね…」
何があっても、あなたはきっと俺を最優先に守ってくれるのだろうから。
煌めく夜景の中に浮かぶ俺の顔は、複雑な色を映して揺れていた。
「だけど、あなたに甘え切るだけでは駄目だ、とも、思いました」
俺が、俺の立場や価値を自覚して、利用されたり、火宮にとって害になったりしないように。俺は俺でしっかりと自分の足で火宮の隣に立たなくてはいけない。
「ククッ、急に大人になって。まだまだ俺に寄り掛かってくれていていいものを」
「それはとても楽で、簡単な道でしょうけど…。でもやっぱり俺はあなたのパートナーだから」
「翼?」
「寄り掛かるんじゃなく、寄り添うことを選びたいです。きちんと自分の足で自立して、あなたの隣に堂々と佇みたい」
目の前の窓ガラスに映った俺の唇が、緩やかに弧を描いた。
「ククッ、だからおまえが」
「え?」
「ふっ、相変わらず男前だな」
にっこりと、蕩けそうなほど優しい笑みを浮かべた火宮の顔は、眼下に広がる夜景よりもずっとずっと綺麗だった。
「それで?」
「へっ?」
綺麗な火宮の顔に見惚れていた俺の、間抜けてキョトンとした顔がガラスに映る。
「男前な翼は、披露目式での自分の言動の落とし前を、どう取るつもりだ?」
せっかくの綺麗な微笑を、ものの見事に意地悪でサディスティックな笑顔に変えた火宮が、ガラス越しではなく、直に俺を見下ろしてきた。
「っーー!」
「さて、今日の仕置きは…」
ニヤリ、と、妖しく笑った火宮の顔は、俺には悪魔のそれにしか見えなかった。
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