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「あーぁ、藍にオシオキ、楽しみにしてたのにな」
「はぁっ?和泉てめぇ…」
放課後、今日は生徒会もないという紫藤も一緒に、3人で校門まで歩いていた。
「まぁまぁ」
「くっそ、翼。なんで英語で2点落とすんだよー」
「えっ?俺っ?」
なんでこっちに飛び火するんだ。
「俺は和泉が負けて、1人罰ゲームになんのを楽しみにしていたのに」
「クスクス。残念だったね、藍。でもよかったじゃない。みんな仲良く罰ナシになって」
「そうだよね」
何より平和な結果になったと思う。
「やったー。これでご褒美だー」
夏休みに、火宮とお出掛け。
ウキウキと弾む声に、2人の微妙な苦笑が向いた。
「なに、火宮くん、1位だと恋人さんになにかもらえるの?」
「そういやおまえ、夏休みにお出掛けがどうのって言ってたよな」
「うんっ。夏休みにデート?いや、旅行?ん?バカンス?と、とにかくどこかへ連れて行ってくれるんだって」
へにゃりと崩れていく顔が止まらない。
「へぇ。1人だけ随分とモチベーションが上がる餌があったんだなー」
「う。えっと、それはその…」
「ずるい、とは言わないけど、羨ましいねぇ、相変わらずラブラブかい?」
クスクスと笑う紫藤も、当然のように俺と火宮の状態を知っているらしい。
「ラブ…って」
「体育祭であれだけ見せつけられればねぇ?」
「あー…」
そういえば、全校生徒の前で、ド派手なパフォーマンスをされたっけ。
「ぷぷっ、まぁでもヨカッタな。どうせ会長サン、普段忙しくて、あまり遠出とか出来ねぇんだろ?」
「うん」
「そっか。まぁ楽しんで。でもそれじゃぁ、僕と藍にも、目標達成のご褒美がないと不公平だよね?」
「あ?」
「ってことで、藍、夏休み、どこか2人でお出掛けでもしよっか」
にこりと微笑む紫藤に、豊峰の眉がくしゃりと寄った。それと同時に、俺はふといいことを思いつく。
「あっ、それならさ、いっそ火宮さんにお願いして、みんなで行くことにしない?海とか山とか、なんか夏休みらしいこと!」
名案だ!
ポンと手を打って2人に同意を求めたら、紫藤の嫌ぁーな視線と、豊峰の胡乱な目が向いた。
「火宮くん、それはちょっと、空気を読んだ方がいいよ」
「え…?」
「それさぁ、マジであの会長サンが受け付けると思うのか?」
「えーと?」
火宮が頷くかどうかは俺次第だとは思うけど…。
「はぁぁっ」
「やれやれ」
「なっ、なんだよ2人とも!」
はなから出来ないと思ってる?
「絶対いいって言わせてみせるから!」
「いや、そうじゃなくてね。その突拍子もない案は、僕にも恋人さんにも迷惑極まりないから…って、聞いてないね」
「ったく、翼。んな要求、ヤクザなあのお方に突きつけてみろよ…。どんな見返りを求められるか分かったもんじゃねぇ…って、聞いてねぇな」
夏休みデートが、何故かみんなでバカンスにすり替わりつつある俺の脳内は、すでにその、ワイワイと楽しそうなプランの想像でいっぱいだ。
「真鍋さんでしょー、浜崎さんと池田さんも。それから、お暇だったら夏原さんも呼ぶといいよね」
「あの、火宮くん?」
「やっぱり山でアウトドア?バーベキューなんか楽しそう。それとも海で花火とか。それもいいなー」
「おい、翼?」
指折り想像するその光景は、どうあっても楽しいものばかりでワクワクする。
「ねぇ藍。コレ、止めてよ」
「はぁっ?俺が?やだよ。こいつの機嫌を損ねると、俺が面倒くさい」
「えー、僕も迷惑…」
『いやでも待てよ?藍は今、僕が2人きりで出掛けよう、って誘ったって、多分オーケーしてくれないよね。なら、いっそ火宮くんの案に乗って、グループ交際の中から、こっそりはぐれて抜け出して2人きり、ってプランの方が…』
「和泉?」
「あ、あぁごめん。なんでもない。だけど、なんかもう、火宮くんの好きにさせてみようかなと思い始めた」
「はぁっ?おまっ…そもそも、おまえんち親が、ヤクザな面々とバカンスなんて、許すわけが…」
「ま、その辺りはなんとでも誤魔化しようがあるでしょ」
うーん、山と海、悩むなぁ。
「ねぇ藍くん。藍くんは、山がいい?海に行きたい?」
「はぁっ?おまえも、マイペースすぎんだろ…」
「え?」
なんか悪いことしただろうか。
呆れたように睨まれる意味が分からない。
「そもそもなぁっ、おまえはそのご褒美とやらのために、テストを頑張ったんだろうけど、俺はまだ、親父と対峙するっつー大仕事がだな…」
「あ、そっか。そのためだったよね」
勉強を頑張ったの。
「そーだよ。それがまだ残ってんのに、バカンスとかって…」
まだ違ぇ、と呟く豊峰に、なんだか1人で浮かれて悪いことをしてしまった。
「ごめん」
「っ、別に、おまえにはもう楽しい夏休みが待ってるだけなのは分かってっけど」
「うん…。あっ!じゃぁさ、ご褒美!」
「は?」
「藍くんが、お父さんとのこと、頑張れるように!それが無事に解決なり、進展なりしたら、ご褒美にバカンス!ねっ?どう?」
豊峰と紫藤、2人を順番に見ながら声を跳ね上げた俺に、2人の微苦笑が向いた。
「ねっ!罰ゲーム制度もいいけど、ご褒美制度の方がもっと燃えるって!」
「ははっ、勝手な制度作んなよ…」
「でも確かに、これから頑張る藍には、そのあと労いが必要だよね」
「でしょー?」
ふふ、と、我が意を得たり、と得意になったところで、ちょうど迎えの車の前まで辿り着いた。
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