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翌日。
無事に終業式も終わり、真鍋も納得の成績表を持ち帰った俺は、無事に夏休みを迎えることができた。
これで清々とバカンスへ行く日を待つだけだ!なんて浮かれた俺はやっぱり甘くて。
「翼さん。バカンスは構いませんが、1つ条件が」なんて、冷たい睨みとともに真鍋から突き付けられたのは、「バカンスまでに夏休みの課題の全クリア」なんて、盛り上がりに水を差すことこの上ないような発言だった。
それでもなにくそと、真鍋が監督がてら家庭教師に来てくれるのに食らいつき、無事、夏休みの課題という課題を、俺は綺麗に片付けた。
当然のように巻き添えを食った豊峰が、何度も弛んだ態度を取って、とうとうお尻を腫れ上がらされることになったのはご愁傷様だったけれど。
そうして2週間後。
「うん、いいお出掛け日和だね」
にこりと、首元で束ねたサラサラの長い髪を揺らして、屈託無く微笑んだのは、助手席の夏原だ。
「なんでおまえなんだ…」
はぁっ、と呆れた溜息を隠しもせずに、後部座席の俺の隣、助手席の後ろに座った火宮が面倒くさそうな視線を夏原に向けた。
「えー?俺だって、能貴と同じ車に乗る気満々でしたけど、能貴の鶴の一声で、『あなたは会長と同じ車です』なーんてピシリと言われましたらねぇ?」
逆らいようがありません、とおどけて笑う夏原に、火宮がふん、と鼻を鳴らした。
「それでも強引に真鍋と同じ車に乗り込むのがおまえだろう?」
「ふふ、俺がこの車に乗っていると、会長には何か不都合が?」
にこりと笑う夏原は、さすがヤクザの顧問を引き受けるだけはあるのか。
「てっきりおまえも俺と同じ意向かと思ったけれどな」
「まぁ、利害は一致していますけどね」
ニヤリ、にこりと笑い合うこの人たちの空気感が、なんか黒い…。
「ふん。そうやすやすと引き返せないところへ着くまでは、油断させておく魂胆か」
「会長と違って、こちらには協力者が皆無ですから」
「その協力者の筆頭が、我が身の保身で手一杯のようなんだが」
誰のせいだか、と冷ややかな視線を助手席に向ける火宮に、夏原が苦笑した。
「あの…」
「ん?どうした、翼」
「いえ。あの、2人とも、さっきから何の話をしているんですか?」
ブラックな会話だっていうことだけは空気で分かるんだけど、中身がさっぱりだ。
「ククッ、こちらの話だ」
「こっちの話だよ、火宮翼くん」
ふふ、なんて悪戯っぽく笑う夏原が、しぃっ、と人差し指を口の前に立てる。
「秘密の悪巧みですか?」
「どうかな?」
「でも能貴には秘密」と囁いて、パチンとウインクしてみせるその仕草が、夏原にはよく似合う。
「ふっ、翼。気にするな、忘れろ」
「うー、でもなんか引っかかる…」
しかもよくない予感がひしひしとするし。
「ククッ、そんなことより、ほら。サービスエリアがもうすぐあるが、寄るか?」
ふと車窓を流れる看板を見ながらの火宮の提案に、俺は小さく首を傾げた。
「寄りたいですけど、他の車は?」
今回、俺たちの乗る車の他に3台、この旅行の同伴者たちが分散して乗っている車が並んでいるのだ。
その車たちを無視して、勝手に決めてもいいんだろうか。
うち1台はまるっきり護衛だと言っていたし…。
「ふっ、この車の動向が最優先だ」
「え…」
「聞いていたな」
「はい」
火宮の声に運転手が応じて、無線で連絡を始めた声が聞こえてくる。
「い、いいんですか?」
「当たり前だ」
「ふふ、相変わらず火宮翼くんは謙虚でいい子だね」
楽しげな夏原の笑い声が聞こえたのと同時に、火宮の視線が鋭く助手席に向けられる。
『そして素直で単純』
「夏原」
「あは、すみません」
………?
なんだか火宮と夏原の、会話の外で交わされるなにかがどうも引っかかるけれど、とりあえず始まりを告げたバカンスに、俺の心はウキウキと弾んでいた。
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