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和
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おれが缶コーヒー片手に病室へ戻ると、ニンプは元ヤンと愉しげに喋っていた。
「あ、翔!お帰り~。」
あのニヤニヤ笑う顔からすると
おれの恥ずかしい昔話でも聞いたんだろう。
ーま、さっきの顔のままより、ずっといいけどな。
なんて、考えつつ座ったら、オフクロにどやされた。
「おい、困った時だけ連絡してくんじゃねーよ。」
完全に図星でカッコ悪いのは解ってたけど、認めるつもりは毛頭ない。
「じゃ、事後報告にすりゃあ良かったな。」
「どっちでも、結末は同じだろうが。」
「まあ、そうだけど。つーことで、よろしくな。
」
「何がよろしくだよ、全く!」
こういうの、キライじゃないクセに。
むしろ、孫が出来て嬉しいクセに。
おれと同じく、素直じゃないオフクロは、おれの頭に特大のゲンコツを落として、帰って行った。
「良い人だね、川上のお母さんて。」
「声デカいし、イチイチ面倒くせえけどな。」
「でも、ちゃんと悪いことは悪いって注意してくれそうじゃん?」
「ま、そこに命賭けてるような人種だからな。」
「ウチは、カネの為なら何でもやる人だからさ。
…自然観察の会とか、親子野外教室って、そういうイベントにマニアなオッサン達呼んで、オメガの子に会える!みたいなさ…、俺それ知らなくて、普通にはしゃいでてさ…」
「キツいな、それ。」
「中には優しくしてくれた人もいたけど、今思えば、やたらカメラがデカかったし。しなくていい着替えとか、結構したような気もしてさぁ。」
「なんだそりゃ。」
つまり、アレか。
郁生の遠足やキャンプには、見知らぬオッサンがつきもので、観察され放題だったのか…。
-あの女、マジ鬼だな。
「でも、ある日とうとう、観察会の方からクレームが入ってさ『会員じゃない方の参加はご遠慮願います』って。当たり前だよね?」
ー会員じゃない?
あ、そうか、あの調子じゃあ、会費とか払うわけがないか…。
「それから、どうなった?」
「どうもしないよ。その後すぐアレは失踪したからさ。」
親父さんが亡くなった頃、か。
おれが何も言えず、目を伏せた瞬間だった。
「おい、翔!」
目を丸くした郁生がおれを呼んだ。
「ん?なんだ。」
「今、蹴った。」
「は?」
蹴る?
一体、誰が誰を?
「腹の中の人が、ドンって、動いた。」
「おー!マジかっ?」
てことは、羊水、足りてきたのか!
「検診ん時は絶対寝てるしさ。お義母さんが呼んでも反応しなかったのに。気まぐれだな。」
「おまえに似たんじゃね?」
「だったら、翔にだろ。」
ーいや、きっと。
暗くなってるおれ達にカツ入れたんだ、絶対そうに違いない。
まだ見ぬ存在に、おれは静かに思いをはせた。
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