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そんなわけで、脅し中。
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別に嫌いだとか、そういうわけじゃないけど。
『君たちみたいなアホとは関わりたくありません』的な?
いつも一人なのに平気な顔しちゃって。
その眼鏡の奥の涼しげな表情で、教室を高い場所から眺めてる感じが、ね。
あえて言うなら、まぁ──気に入らない?
「なぁ、沢井って······巨乳すきなの?」
俺が薄く笑いながら聞いてみたら、その眼鏡の奥の真っ黒な瞳が、大きく揺れた。何か言いたそうな小さな唇が、ぴくりと震える。
「本屋で立ち読みしてたじゃん。あの雑誌、買ったの?
······“巨乳コレクション”」
俺の言葉に、沢井の顔が一瞬にして赤く染まる。
そのせいなのかは分からないけど、窓を締め切った密室の温度が、ムラッと上がった気がした。
それから座ったままの沢井は、机の上に開かれた参考書を覗き込むようにして俯いた。
艶やかな黒髪がさらりと、その表情を隠す。
まず、この辺からすでに俺が想像していた反応とちょっと違うっていうか······全然違う。
あれ?って、実は内心、そわそわしてる。
「ち、違う······」
それは、ほんとに偶然で。
あの日、たまたま本屋の前を通り掛かった俺が、エロ本を立ち読みする沢井を見かけて『あ。いいこと考えちゃった』くらいの。ほんの茶目っ気で『どんな反応するかなぁ、あいつ』って、感じで。
「ふーん?」
「あ、あれは······っ!!」
耳まで真っ赤にしてる沢井を、こんな風に上から眺めて煽る俺の──喉が鳴る。
「嘘はよくないよなぁ?······いいの?俺、言いふらしちゃうかもよ」
「そ、それは······」
瞬きを繰り返して、声を震わせて、ごにょごにょと俯く沢井は······マジか、泣きそう。
必死になって苛立ってるとことか、青い顔して焦ってるとことか?沢井のそういうとこ、見たことないからさ。いつも澄まして、お友達(参考書)と寄り添っちゃってる沢井の──。
「言いふらされたくないでしょ?ね、巨乳好きの······沢井くんっ?」
そういう部分をさらけ出したら、おちょくって、からかってやろうかなぁって。日頃から鼻に付く、そのつまんねぇ顔を、少しでも崩してやりたくて。
そう、だから俺は『ちょっと遊んでやるだけ』の、つもりだったんだよ。
ていうかさ、健全な男子高校生なら誰だってエロ本くらい読んでるからね。
なぁ?
それがどうした、うるせぇなって言えばいいじゃん。
えーん、篠崎くん、やめてようってベソかくとかさ、こっちはそういうのを期待してたんだけど。
“学年トップの沢井君”にしてみたら、コレってそんなに、恥ずかしいことなわけ?
けどさ、それにしても、だよ。
無口で、無表情で、決して動じない。
そんなお前が──。
「······嫌、だ······頼む、篠崎」
なんて顔して、そんなこと言ってんの。
耳まで真っ赤にさせて、目を潤ませて、まるでねだるような、その声も。
こんな予想外の沢井を見せてくれたもんだから、なんだか頭の奥がピリッとして、くらくらする。
なに、この感覚?
なんかさっきから──たまんないかも。
放課後の教室。
俺とこいつの二人きり。
夏はすぐ目の前だけど、じんわり肌が汗ばんでるのは、それのせいだけじゃない。
沢井が俺のシャツを弱々しく掴みながら呟いた声は、グラウンドから響いた下校する生徒のはしゃぐ声と共に掻き消された。
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