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ピーチゼリー。
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トキヤが珍しく熱を出した。
だから、幼馴染として…恋人として。見舞いに来た。
「トキヤ、大丈夫か?」
「ん…ユウ?」
3月になった。
少し暖かくなり始めたかと思うとまた寒くなる今の時期だ、体調を崩すこともあるだろう。
「わぁ、ユウだ…」
いつものように人懐っこい笑顔で、ベッドに寝転がったまま手を伸ばし、俺の首筋に触れる。
でも、その頬は熱をもって赤く、息遣いも少し荒い。
俺を見つめる目も潤んでいる。
「…熱い」
「冷たくて気持ちいぃー」
外から来たばかりの俺には、本当はいい具合に温かいのだけど。
トキヤの手に俺の手を重ねる。
うん、…温かい。
「…何度?」
「38.6」
「高熱じゃん」
普段は中々見られない、トキヤの無防備な姿。
…辛そうだ。
「…馬鹿は風邪引かないって、嘘だな」
「それ、俺のこと馬鹿にしてる?」
「うん」
「えーそんなハッキリ言う?ユウひどいー」
手を引っ込め、俺に背を向けて布団に潜った。
その動きがゆっくりなのは熱のせいなのだろう…。
そう、でもきっとこれは変わらないはず。
拗ねたフリをしたトキヤに聞いてみる。
「…ピーチゼリー持ってきたけど、食べる?」
「たべる」
ほら、単純だ。
好きなものを与えると喜ぶ。
…お前は犬か。
耳と尻尾を生やしたトキヤ犬が、ピーチゼリーを見て一生懸命尻尾を振る姿が思い浮かぶ。
思わず笑いそうになるのを、眼鏡を上げる動作で振り払った。
俺がそんなことを考えている間に起き上がったトキヤを見ると、やっぱり仔犬のような目をしていた。
「はい」
「ありがと」
蓋を取って、プラスチックのスプーンと共にトキヤに渡してやる。
「ん、うまい」
ゼリーをすくって、ゆっくりと開けた口に運ぶ。
ちらりと見えたトキヤの赤い舌。
口の中に入ると、スプーンだけがトキヤの唇の間から出てくる。
喉も痛いのだろうか…何度か咀嚼したあと、ゆっくり飲み込む。動く喉。
ピーチゼリーを食べるその姿に、俺は…
「ユウ?」
「……ん?」
「どうしたの…?」
声をかけられて、トキヤのことを見つめていたと気付く。
「…ユウも食べたい?」
「いらない、風邪移るだろ」
トキヤのベッドサイドに腰かけ、ももゼリーを食べ終えるのを待つ。
さすがにどうかしてるぞ、俺。
確かに熱のせいでめちゃくちゃ色っぽいけど、辛そうなトキヤに…欲情するなんて。
しかも、まだ付き合い始めたばっかりで、いくらなんでも…。
「ごちそうさま」
「……あぁ」
「どうかした?」
「何が」
「今、瞬きが増えた気がしたから」
俺は無表情は得意だが、誤魔化すときの癖があるらしい。
瞬きが増えること。
また無意識にやっていたようだ。
「別に。…トキヤが高熱出すなんて珍しいな、馬鹿なのに。って思ってただけ」
「またそれー?」
食べ終わったカップを片付けながら、一応言い訳をしてみた。
「さ、じゃあ帰るわ。お大事に」
「待って…」
控えめに両手を広げて、上目遣いで俺を見つめてくる。
ため息を一つついて、トキヤを抱きしめた。
ぎゅっと俺に抱きついて、耳元で囁く。
「ユウ、ありがとう。すき。」
「っ…」
掠れた声でそんなこと言うから、わざとなのかと思ってしまう。
こいつのことだから、おそらく素だろうけど。
「…早く治せよ」
「ん、ありがと」
体を離すと、トキヤは名残惜しそうな顔をしていた。
「じゃあね、ユウ」
なんだか寂しそうで、思わず唇を重ねた。
「…え」
一瞬触れただけ。
でも、間違いなく、俺とトキヤのファーストキス。
「…ユウ?」
「……あ、…ごめん、なんか、つい…」
「…ユウって、意外と積極的だったんだ」
「ちがっ…」
体が火照っていくのが分かる。
あぁもう…。
俺はその場にしゃがみこむ。
本当に、つい、だった。
何してるんだ、俺。
こんな風に急にキスして、トキヤに引かれやしないだろうか。
まだ付き合い始めたばっかりだし…
平均的なファーストキスまでの日数はどのくらいなのだろう。
でも俺たちは恋人なんだ、キスくらい普通…いや、男同士の恋人って、普通なのか?
ていうか、こんな状況でファーストキスを終えてしまって良かったのか…
そんな訳の分からない考えは、トキヤの一言で吹き飛んだ。
「嬉しい…」
顔をあげると視界に入ったトキヤの頬は緩みきっている。
その頬が赤いのは、熱のせいか俺のせいか。
なんだか堪らなくなって、もう一度キスをした。
二度目のキスは、ピーチゼリーの味がしたような気がした。
俺は、自分で思っていたほど理性的な人間ではないらしい。
トキヤの前でだけは。
Fin.
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