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待ち合わせ
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外出するには億劫な曇り空。
昼下がりだというのに口から洩れる息は白く、
乾燥した頬は冷たい空気に晒されて、ピリッと痛む。
予報では、これから雪が降るらしい。
普段なら『絶対に外出えへん』と
己の体に固く誓い、
こたつの中でゴロゴロしているであろう休日。
上司の鬼八津さんの命令で
雪原の仕事を手伝うことになった俺は
約束の10分前に待ち合わせ場所へ到着し、
規則正しく行き交う人の流れを外れて、
駅前の自販機の横に身を寄せていた。
…………………のは、かれこれ30分も前の話。
「ゆきのヤツ、ぬわぁにが
『弖虎さん、早目に来てくださいね~♪』や。
どの口が言うとんねん、アホ………」
コートの襟を引っ張り
剥き出しの両手を擦り合わせて、息を吹きかける。
それでも寒さは消えず、
腕を組んでじっと耐えていると
二人組の女の子が
俺をチラチラ見ながら近づいてきた。
「あの~、お一人ですか?」
「お一人様過ぎて悲しみに暮れていたところです」
「あはは、そうなんですか~?
良かったら一緒にお茶でもいかがですか?」
「お茶!いいですねー!」
俺の返答を聞いて喜ぶ女の子たちに、
自然と顔が綻ぶ。
逆ナンされてどんよりした気分が
少しだけ和らいだ俺は、
隣の自販機へいそいそと小銭を投下した。
「何にします?俺のお勧めは百合鷹ですけど」
「……………はい?……」
「弖虎さん、何してるんですか?」
マスカラがたっぷりついた睫毛を
不可思議そうに瞬かせる女の子たちの後ろから
大きな瞳を同じようにパチクリさせて現れたのは、
社内一の癒し系リーマン男子、雪原だ。
「ゆき~!お前こそ何してたんや!遅いわ!!
俺をカチコチに凍らす気か!?」
雪原の顔を見るなり半泣き状態になった俺は
女の子たちの間をすり抜けて、
その小さな体に抱きついた。
「あの女の子たちにお茶にでも誘われたんですかぁ?」
「そうやねん!
せやから自販機でお茶を買おうと………あれ?」
振り返ると、そこには誰もいなかった。
首をかしげる俺に、
ゆきは呆れたようにため息をつく。
「ホントに弖虎さんって
ガッカリイケメンですよねー………」
「なんやそれ、
落ち込んだらええのか悲しんだらええのか
分からん仕様やな。
………つか、その手に持ってるやつなに?」
俺に抱きつかれた拍子に潰されまいと、
高く持ちあげられた雪原の手には、
たっぷりの生クリームにチョコレートソースが
かかったクレープが握られていた。
「あ、これですかぁ?
途中で美味しそうなクレープ屋さん
発見しちゃったんです~♪
でも僕、買う気はなかったんですよ?
気が付いたら列に巻き込まれてたんです!」
「……とーぉ、っても目に浮かぶ光景やな」
そう言うと、雪原は可愛らしく笑った。
その屈託ない笑顔に、
通り過ぎる男たちが振り返り、
立ち止まり、釘付けになる。
(………ほうら見ろ……
せやから、ゆきと外回りは嫌やってん………)
俺は雪との1日を想像し、深いため息をついた。
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